平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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西浦一輝『夏色の軌跡』(角川書店)

プロゴルファーの箕島仁は、国内初勝利後米国ツアーに挑戦したが、膝を痛めて帰国した。その箕島を待ち受けていたのは、恋人・都築洋子の変死だった。自分を初勝利に導いてくれたキャディでもあった洋子は、箕島の子を宿したまま、無残な姿で発見されたという。プロを引退し、ゴルフ場のグリーンキーパーとなった箕島は、洋子の一周忌を機に事件解明を決意する。教え子の柄沢雅志が出場する全日本高校ジュニア選手権が行なわれるのが、たまたま洋子が死の直前まで勤めていた無農薬ゴルフ場であるのを知った箕島は、雅志に同行して、洋子の死の真相を探ろうとする。白熱する選手権のさなか、洋子の死を嘲笑うかのように、もうひとつの殺人事件が発生した。犯罪の影には、怖るべき社会悪が潜んでいた……。その清新なタッチで選考委員の絶賛をあびた、瑞々しさ溢れる青春ゴルフ・ミステリー。(粗筋紹介より引用)

1996年、第16回横溝正史賞佳作受賞。加筆修正のうえ、同年5月刊行。



ゴルフは日本でもかなり人気のあるスポーツだと思うが、ゴルフそのものを扱ったミステリはあまり多くない。作者はレコード会社勤務と書かれていたが、ゴルフについてはどうなのかあとがきを読んでも書かれていない。多分、趣味としてゴルフをしている人なのだろう。ただ、書かれている内容はゴルフがわからない人でも楽しめる内容であるし、またゴルフを知っていればより一層面白くなる内容である。

話の筋は二つ。一つは箕島の恋人が殺された謎。そしてもう一つは全日本高校ジュニア選手権。一章ずつ交互に書かれており、どちらも箕島が関わってくる。このうち選手権の方については雅志と一緒にラウンドを回っている優勝候補の筆頭、氏家慎二に関わる疑惑である。殺害されるのは優勝候補の一人であり、同じラウンドで回っていた牧武則。ストーリー上仕方がないとはいえ、彼を殺すこともなかったのにと思う後味の悪さである。

作品の内容は悪くなかったと思う。ただ選評で多くが言っているように、ゴルフ青春小説としては悪くないのだが、ミステリとして読むとやや弱い。特に二つの殺人事件がありながら、それらが密接につながっていない点は、読者に肩透かしを食らわしている結果となっており、とても残念である。

けれど個人的な感想から言えば、第16回の優秀賞である山本甲士『ノーペイン、ノーゲイン』より面白さという点では上ではなかっただろうか。ただしミステリの構成や工夫という点については山本作品より劣る。いっそのことゴルフだけに絞り、ジュニア小説あたりに応募した方がよかったのかもしれない。

作者はその後、2作品を書いて沈黙している。