- 作者: 山田彩人
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/10/08
- メディア: 単行本
- クリック: 5回
- この商品を含むブログを見る
2011年、第21回鮎川哲也賞受賞作。同年10月、単行本刊行。
「リーダビリティ抜群の筆致」と書かれている時点で嫌な予感がしていたのだが、結末まで読んで的中。そこしか褒めることがない!
事件は3つ。藤野千絵が演劇部の部室で殴打された事件。8年前、千絵の親友だった竹下実綺が自殺した事件。実綺が書いた脚本『眼鏡屋は消えた』のモデルであり、脚本を書いた3年前に事故死した橋本ワタルの事件。8年間の記憶を無くした千絵は、同級生で探偵を職業としている戸川涼介に事件の真相を探ることを依頼する。
事件の真相だが、1つについては物語序盤からの違和感で早々に気がつくものだったと思う。というか、これだったら嫌だなあ、と思えるものだった。まあ、あと2つについては調査が進むにつれてわかるものではあったが、選評で北村薫が指摘しているとおり、「推理」ではなくて「推論」を繰り返しているだけのものだった。警察は絡まないし、過去の事件なので物的証拠なども無いことから仕方が無いのだろうけれど、鮎川賞で期待されている本格ミステリの面白さには欠ける内容である。
不満に思うところは多い。実綺の事件と橋本の事件に絡む関係者の整理ができていないからわかりづらい。戸川と千絵の会話に無駄が多いから、中だるみしている。探偵の戸川もイケメンという設定が最初しか生かされていない。主人公の千絵が結末を除くと脳天気でやかましいだけの存在で終わっている。演劇の上演結果ぐらいもっと筆を費やしてほしいところ。舞台が高校ならもっと高校生を絡めてほしい。結末の決意はとってつけた感が強い。そもそも、記憶を失う前の性格と結末のある部分を比較すると首をひねるところがある。それとそんなところまでリアリティを追ってはいけないのだろうが、高校2年生の能力で高校の授業をやるという設定はさすがに無理があるし、派手に金を使っていそうな割には探偵を雇う金がよく残っていたものだ。
選評を読んでも、積極的に本作を推している人がいない。いわゆる消去法で選ばれたとしか思えない。これだったら受賞作無しでもよかったのではないかと思うのだが、何らかの将来性を感じたのかも知れない。単に量産できるタイプだと思ったのかも知れないが。それと島田荘司の選評はピントを外していると思う。そんな犯罪者、小野悦男の模倣に過ぎないじゃないか。
作者には関係の無い所だが、この表紙も頂けない。粗筋もピントを外しているんじゃないか。ライトノベル風味を強調したかったのだろうが、中身と一致しない点は編集側の問題である。
作者はシナリオライターだったらしい。読みやすいという点についてはその経歴で納得。ただそれだけの作品。甘くも切なくもありません。駄作とまでは言わないが、「微妙」という言葉が一番しっくり来る。イケメンの戸川涼介は次作『幽霊もしらない』にも出てくる。イケメンだったら、いっそのこと女をくどきまくって証言を得ながら事件を解決するぐらいすればいいのに。