- 作者: 麻見和史
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/09/30
- メディア: 単行本
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園部よ私は戻ってきた。
今ここに物語は幕を開ける……
動揺する園部。彼を慕う助手の千紗都は調査を申し出るが、園部はそれを許さない。しかし、今度は千紗都自身が、標本室で第二の詩を発見してしまう。
黒い絨毯の上で死者は踊り
生者は片腕を失うだろう……
事務員の梶井に巻き込まれる形で調査を始めた千紗都は、チューブを埋め込んだ医師を突き止める。だが、予想外の事実に千紗都は困惑した――その医師は十九年前に自殺していたのだ。
抜群のリーダビリティ、骨太のストーリー、意表を衝く結末――
第16回鮎川哲也賞受賞の傑作ミステリ。(粗筋紹介より引用)
2006年、第16回鮎川哲也書受賞。同年9月、単行本発売。
舞台は大学の解剖学研究室。帯にある通り、「解剖学研究室を覆う、19年目の壮大な復讐計画」である。ヒロインは研究室所属の助手、深澤千紗都。復讐のプログラムが動き出すかのように、殺人事件が発生する。園部の恩師である北玄一郎が、研究室の技官である近石が。タイトルにある「ヴェサリウス」は、近代解剖学の父と言われたアンドレアス・ヴェサリウスのこと。
一応探偵役らしき人物はいるが、はっきり言って巻き込まれた人物たちが調べたら事件の真相が出てきました、というサスペンス。推理もトリックも何もない。これがサスペンスならそれでいいけれど、やはり鮎川賞に求めるのは本格ミステリ。ここまで賞の特徴と合致しない受賞作も珍しい。鮎川哲也が選考をしていたら、間違いなく選ばれなかっただろう。
大学の解剖学研究室が舞台ということもあり、解剖についての舞台裏がいろいろ出てくる。ただ、どことなく乱歩賞のお勉強ミステリを思い出し、あまり好きになれなかった。珍しかったのは事実だが。リーダビリティは抜群。いったいどうなるのだろう、という興味をうまく持たせている。登場人物の造形も悪くない。なんとなくピンと来ないのは、梶原ぐらいだろう。ヒロインだけでなく、犯人もよく描けている。
ただ、ストーリー自体は、乱歩の通俗ミステリかよ、と言いたくなるぐらい古臭い。当時ならまだしも、今時このような動機で犯罪に手を染めるだろうか……と言いたいところだが、人って簡単に洗脳されるからなあ。とはいえ、古い。古すぎる。それに、あまりにも偶然に頼り切った犯罪計画。久世という男のどこに魅力があるのかさっぱりわからないというのも問題である。
結局、通俗サスペンスとして面白く読みました、としか言いようがない作品。作者がなぜ鮎川賞に応募したのかを聞きたいぐらい。その後の作品を見ても、本格ミステリとは縁がなさそうだし、本当にわからない。