平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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似鳥鶏『理由(わけ)あって冬に出る』(創元推理文庫)

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

某市立高校の芸術棟にはフルートを吹く幽霊が出るらしい――。吹奏楽部は来る送別演奏会のための練習を行わなくてはならないのだが、幽霊の噂に怯えた部員が練習に来なくなってしまった。かくなる上は幽霊など出ないことを立証するため、部長は部員の秋野麻衣とともに夜の芸術棟を見張ることを決意。しかし自分たちだけでは信憑性に欠ける、正しいことを証明するには第三者の立会いが必要だ。……かくして第三者として白羽の矢を立てられた葉山君は夜の芸術棟へと足を運ぶが、予想に反して幽霊は本当に現れた! にわか高校生探偵団が解明した幽霊騒ぎの真相とは? 第16回鮎川哲也賞に佳作入選したコミカルなミステリ。(粗筋紹介より引用)

2006年、本作で第16回鮎川哲也賞佳作受賞。加筆修正のうえ、2007年10月、文庫オリジナルでデビュー。



高校を舞台に高校生たちが幽霊騒動の謎を解く本格ミステリ。内容的にはライトノベルと言ってもよく、現実の殺人事件が起きるわけでもないので、それほど深刻な内容とはならないが、犯人当ての方は論理的な謎解きが展開される。どうやって幽霊が現れたか自体は機械的なトリックが使われていることが見え見えなので、正直言ってそれほど興味がない。やはりなぜの部分の方に興味の重点を置いてしまうが、こちらは結構うまくやっていたと思う。言われてみればあっと思う内容だし、特に最初の幽霊の謎の理由なんて、なぜ思いつかなかったんだろうというぐらいの内容だった。高校生らしさが出ていて、よく描けている。

応募時は30歳に手が届きそうな主人公が、学校が解体されるという話を聞き、当時を回想するというストーリーだったというが、確かにこの内容だったら回想する理由はほとんどない。残念ながら佳作止まりだったとしても仕方がない。それを抜きにしても、どうしても軽めの内容だから、受賞は難しかっただろうが、最初からこの形だったらどうなっていたかわからない。

創元らしからぬカラーの作品だが、イラストもそれっぽくしており、売れてシリーズ化されたのもわかる気がする。もうちょっと恋愛がらみの話を混ぜてほしかった気はするけれど。