- 作者: 法条 遥
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/10/23
- メディア: 文庫
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2010年、第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞。応募時タイトル「同時両所存在に見るゾンビ的哲学考」。2010年10月、角川ホラー文庫より刊行。
「バイロケーション」とは何かと思ってWikipediaを見ると、超常現象の一つで、同一の人間が同時に複数の場所で目撃される現象、またはその現象を自ら発現させる能力を指す、そうだ。聞いたことは無かったが、19世紀から研究されているらしい。なお本作品は、2014年、安里麻里監督・脚本、水川あさみ主演で映画化されている。
もう一人の自分が、自分とは違う行動を身近で取っている。確かに考えたら怖い設定。苦悩するのもわからないでもない。ドッペルゲンガーとは異なるという点で、設定が巧いとは思った。ただ、それを生かし切る筆力があったかと言われたら疑問。何より、場面の切り替えが下手でわかりにくい。細かいところを突っ込んだら、いくらでも疑問が出てくる。たとえば、「バイロケーション」が食べたものはどうなるのだろう。一緒に消えるのは変じゃないか。だいたい、鏡に映らないという明確な違うがあるのなら、すぐにばれるのではないだろうか。過去にそれだけのバイロケーション被害者がいるのなら、むしろ学会等に訴えて調べてもらった方がよっぽどわかりやすいのではないか。なんか、考えれば考えるほど矛盾が出てくる。
ストーリーもご都合主義なところが多い。「もう一人の自分であるバイロケーションを何とかする会」の会長である飯塚が色々と権力があるものだから、設定に無理がありそうなところは全部こいつに押し付けて乗り切っている。しかも飯塚が「今は言えない」を連呼するものだから、登場人物の忍のみならず、読者の方も苛立って仕方がない。昔の「もし私が知っていたならば」派を思い出してしまった。それに門倉の殺人事件は不要だっただろう。
そして残念なのは、オチが想像付くところ。忍の心情はうまく書かれていたと思うけれど、それでも設定を生かし切るような驚きは欲しかった。
結論としては、アイディアは面白かったが、それを生かし切るだけの実力がまだ足りなかった、という点に尽きる。まあ、リーダビリティはそこそこあると思ったが、設定にしろ人物にしろ、もっと中身を練ってほしい。あと半年は推敲すべきだった。