- 作者: 笹本稜平
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2015/04/21
- メディア: 単行本
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『小説推理』2013年11月号〜2014年11月号連載。加筆訂正のうえ、2015年4月、刊行。
おなじみの「越境捜査」シリーズ第5作目。今回の敵は、あくどいやり方で会社を大きくしてきた世界的な大手金属加工メーカーの会長である。最初からフルメンバーで敵に立ち向かうのだが、会長の隠れた窓口役との交渉と関係者への尋問が中心であり、展開としてはやや地味。徐々に核心に近づくかと思ったら、舞台は香港に移り、意外な展開が待ち受けている。
事件の真相は少々意外なところはあるが、鷺沼たちへの派手な妨害があるわけでもなく、ゆっくりとではあるが真相にすんなり辿り着いてしまい、少々拍子抜け。特に会長を追いつめるやり方は、会長側があまりにも無防備。リーダビリティはあるものの、読み終わってみると今まで程の手に汗握る攻防がない点に落胆してしまう。鷺沼もなんだかんだ文句を言いながらも宮野をすんなりとうけて入れている。勾配こそなだらかだが、結局は件坂しかない坂道なので玉が転がってゴールにたどり着いてしまうような、物足りなさが残るのだ。現実にあった「池袋駅構内大学生殺人事件」「金メダリストによる準強姦事件」を小説に組み込んだのは安易に感じた。
シリーズも5冊目となると、ネタを考え出すのが辛いのかもしれない。今までの敵が大物過ぎた分、呆気なさ過ぎた。キャラクターだけで読ませる小説ではないので、もっと頑張ってほしいところである。作者も山岳小説と警察小説ばかりでなく、昔のようなハードボイルドや冒険小説も書いてほしいものだ。