平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今野敏『宰領 隠蔽捜査5』(新潮社)

宰領: 隠蔽捜査5

宰領: 隠蔽捜査5

羽田空港から衆議院議員牛丸真造が行方不明となったので内密で捜してほしいと、元警察キャリアで秘書の田切勇作から伊丹俊太郎刑事部長を通し、大森署の竜崎伸也署長へ依頼が入る。捜査を始めると、牛丸の運転手である平井進の遺体が車とともに発見された。誘拐事件と判明し、大森署に指揮本部が置かれる。本部へ掛かってくる、犯人からの脅迫電話。逆探知により横須賀から掛かってきたことを突き止めた指揮本部は、神奈川県警との合同捜査を行うことを決め、横須賀に置かれた前線本部の指揮を竜崎が行うこととなった。しかし、警視庁と神奈川県警は古くからの犬猿の仲。前線本部に入った板橋武県警捜査一課長は、竜崎への反感を露骨に表し続けた。

小説新潮』2012年3月号〜2013年2月号連載。隠蔽捜査シリーズ長編5作目。



警視庁と神奈川県警の確執は有名で、これを題材とした警察小説も多く見られるが、隠蔽捜査シリーズでこれを使うとは思わなかった。あるいみ手垢の付いた題材を今野敏がどう料理するのか楽しみであったのだが、竜崎の過去の行動や性格から考えるとなんとなく結末の方向性も予想できるわけであり。その方向性が全く変わらなかった、というのが本作品の欠点かな。いわゆる、想定の範囲内の仕上がり。

前半で、竜崎の事が嫌いな野間崎が意外な冴えを見せたり、シリーズで活躍する戸高が核心を突く発言をしたりと、これはと思わせる展開が見られるかと思ったのに、彼らが途中から全く出てこなくなったのは残念。個人的には、竜崎が野間崎か戸高、もしくはSITの下平を連れて神奈川県警に行く展開を妄想していたのだが、叶わず残念だった。

時間との闘いである誘拐事件がテーマと言うこともあり、展開はスピーディー。事件の意外な真相も含め、題材としてはなかなかだったので、過去のシリーズの焼き直しみたいな流れは避けてほしかったというのが本音である。シリーズとして面白かったことは間違いないが。ただ、帯にある「家庭でも予期せぬトラブル」はあまり期待しない方がいい。