平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今野敏『清明 隠蔽捜査8』(新潮社)

清明: 隠蔽捜査8

清明: 隠蔽捜査8

  • 作者:今野 敏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/20
  • メディア: 単行本
 

  神奈川県警刑事部長に着任した異色の警察官僚・竜崎伸也。着任早々、県境で死体遺棄事件が発生、警視庁の面々と再会するが、どこかやりにくさを感じる。さらに被害者は中国人と判明、公安と中国という巨大な壁が立ちはだかることに。一方、妻の冴子が交通事故を起こしたという一報が……。(帯より引用)
 『小説新潮』2018年9月号~2019年8月号連載。2020年1月、単行本刊行。

 

 警視庁大森警察署署長から神奈川県警本部刑事部長に着任した竜崎伸也。物語は前巻『棲月』で公用車に乗って神奈川県警に向かうところから続く。着任早々東京都町田市で殺人事件が起き、警視庁と神奈川県警の合同捜査本部が町田署にできる。警視庁の伊丹刑事部長、警視庁捜査一課の田端課長、岩井管理官といったレギュラーメンバーも登場する。『宰領』で登場した神奈川県警の板橋捜査一課長も捜査に加わり、転任したというイメージがあまりわかないかと思いきや、警視庁と神奈川県警のライバル意識が所々で出てくるのは、警察小説を書き続けてきた作者ならではの腕である。
 ただ、竜崎の手法を知っている人物ばかりということもあり、竜崎との衝突を繰り返しながらいつしか竜崎の人柄に心酔する、といったお約束の展開がほとんどないところが残念。せっかく新しいところに移るので、久しぶりにこのパターンが見られるかと思ったのに。せいぜい、警察OBで冴子が通う自動車教習所署長の滝口ぐらいか。これもあっさりと陥落するしなあ。他の登場人物も含め、簡単に竜崎のスタイルを信用する人ばかりなのは、ちょっとやりすぎじゃない、とも思った。その分、物語のほうはテンポよく進み、田端と板橋というたたき上げの課長の歯車がかみ合う姿が心地よいともいえるが。結末が特に気持ちよかったしね。読後感という点でいえば、シリーズNo.1じゃないだろうか。竜崎自身が愛想が悪く鼻持ちならないと言っている阿久津重人参事官(いわゆる副部長クラスらしい)が今後どう絡むか、それは次巻を楽しみにしたい。
 やはり刑事部長ともなると、実際に現場を駆けずり回る捜査員とはほとんど接触がないのだろうか。今回は名前しか出てこなかった人物や、名前すら出てこなかった人物もいるが、それは次巻の、多分神奈川県内で起きた事件の捜査で出てくるだろう。着任の際に佐藤実警察本部長に頼まれた、神川県警を変える、という言葉が実現するのか、楽しみにしたい。
 ただね、個人的には戸高とかも出てきてほしいと思っているわけですよ。好き放題言っているな、自分。