- 作者: 竹吉優輔
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/08/06
- メディア: 単行本
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2013年、第59回江戸川乱歩賞受賞作。応募時タイトル「ブージャム狩り」。改題、加筆の上、同年8月、単行本刊行。
作者は1980年生まれ。第55回で一次通過、第57回で二次通過、第59回で見事受賞となった。
著名な殺人犯に憧れ、模倣しようとする話は現実でもあるもので、それほど目新しい題材ではない。とはいえ、読んでみたくなる題材であることも事実。そういう意味では興味深く読み始めたのだが……読みにくい。独りよがりな部分が多く、読んでいて苛立ってくる。また無理に難しい単語を使おうとし、上滑りになっているのも腹が立つ。もっと自分の言葉でシンプルに書けばいいのにと思った。視点の切り替えも下手。各章の頭で出てくる独白は、はっきり言って不要だったな。結末近くでまとめてシンプルに書けばよかった。
文章が悪くても中身が面白ければ許せるのだが、内容自体もすっきりしないところが多い。最大の問題点は、「ブージャム」こと新田秀哉に何の魅力もないこと。信奉者や「襲名犯」が出る要素がどこにもない。美貌と書けば信奉者が出ると作者が思い込んでいることが安易である。そのせいもあるが、犯人の動機も納得がいかない。「襲名」する必然性がさっぱりわからなかった。主人公の南條仁がうじうじしているのは仕方がないし、負の連鎖に陥ると思考がどんどんマイナスになるのはわかる。ただ、周囲が助けたくなるような魅力があること(ここでは子どもに優しいところか)などはもっと早めに出すべきだった。
さらに犯人当て要素の部分があるのもマイナスポイント。警察捜査に首をひねる部分があるのはまだしも、登場人物が少なすぎて、かつ言動から読者には犯人が容易にわかってしまい、作品の面白さが減る原因の一つとなっている。それ以前に、警察がここまで無能とも思えないが。
ただまあ、読めない作品ではない。読者に面白く読んでもらおうという筋立てになっているのは評価しても良い。司書の仕事について書かれているところは面白かった。最もこれは、作者が司書をしているという点を割り引くことが必要だろう。
はっきり言って、受賞に達しているというレベルの作品とは思えない。まあ、過去にはこれより酷い作品があったことも事実だが。それにしても選評も酷評が多いね。受賞作に選ぶのだったらもう少し良いところを探し出したらどうなんだ、とは思ってしまう。というか、Aを付けた選考委員ゼロで受賞させるなよと言いたい。出版社が何とか1作は世に出したくて、消去法で選ばれたのだろう。
ちなみに「ブージャム」とは、ルイス・キャロルの詩「スナーク狩り」に出てくる架空の生物スナークのうち、最も凶暴なものを指す、らしい。初めて聞いた言葉だった。多分知名度は低いだろう。これは改題して正解だっただろう。