平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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日向旦『世紀末大バザール 六月の雪』(東京創元社)

世紀末大バザール 六月の雪

世紀末大バザール 六月の雪

1999年5月、ノストラダムスの予言によると、地球滅亡まであと4週間(から最長で2ヶ月)。本多巧はわずかなお金を財布に、大阪へ向かった。たまたま居合わせた二人組に仕事を紹介してもらうが、何ができるか、と問われとっさに「探偵だ」と答えたことから家出した中学生を探すハメに。お目付け役に白のワンピースがまぶしい美少女(でもオカマ)がついたことで、俄然やる気を出す本多だが、捜査開始早々奇妙な事件が二つも勃発! しかもおかしなモールの成立からその摩訶不思議な仕組みまで絡んできて、事態は単なる家出人操作からどんどん発展し……。軽妙な語り口とユーモラスなキャラクターで贈る快作長編。第15回鮎川哲也賞佳作。(粗筋紹介より引用)

2006年、第15回鮎川哲也賞佳作。応募時名義篠宮裕介。応募時タイトル「六月の雪」。改名、改題のうえ、同年6月、単行本刊行。



鮎川賞佳作作品だが、その理由は「この作品は本格ミステリかどうか」ということ。一応密室は2つ出てくるけれど、過去作品をそのまま引用したもので、しかも話の途中で簡単に暴かれる。「大きな謎」は確かにあるが、論理的に解かれるわけではない。選考で物議を醸したのも当然だろう。私自身、これは本格ミステリではない、と言いたい。ただし、面白いかどうかで判断すれば、面白かった。これを世に出したい、という選考委員の判断は正しかったといって良いだろう。

内容としてはユーモアミステリ。関西でも場所によって色々違うんだなあ、と今更ながら思ったがそれはともかく、ベタすぎる会話が続く。読み続けているうちに癖になるから、奇妙なものだ。それに加え、テナントが何も入っていないモールに、ベトナムからの難民を中心とした人たちが「共和国」を作り上げるという設定が絶妙。読んでいるうちにいつしか人情ものになっているところは、松竹新喜劇を見るかのようだ。この設定と、彼らが生活する上でのルールを読むだけでも読む価値がある。「恐縮屋」という職業も目からウロコだった。

ちょっと残念なのは、本多巧という主人公のキャラクターか。バックグラウンドがほとんど語られないので、活躍ぶりに今一つ説得力が見られなかった。