- 作者: 日向旦
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/06/27
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (13件) を見る
2006年、第15回鮎川哲也賞佳作。応募時名義篠宮裕介。応募時タイトル「六月の雪」。改名、改題のうえ、同年6月、単行本刊行。
鮎川賞佳作作品だが、その理由は「この作品は本格ミステリかどうか」ということ。一応密室は2つ出てくるけれど、過去作品をそのまま引用したもので、しかも話の途中で簡単に暴かれる。「大きな謎」は確かにあるが、論理的に解かれるわけではない。選考で物議を醸したのも当然だろう。私自身、これは本格ミステリではない、と言いたい。ただし、面白いかどうかで判断すれば、面白かった。これを世に出したい、という選考委員の判断は正しかったといって良いだろう。
内容としてはユーモアミステリ。関西でも場所によって色々違うんだなあ、と今更ながら思ったがそれはともかく、ベタすぎる会話が続く。読み続けているうちに癖になるから、奇妙なものだ。それに加え、テナントが何も入っていないモールに、ベトナムからの難民を中心とした人たちが「共和国」を作り上げるという設定が絶妙。読んでいるうちにいつしか人情ものになっているところは、松竹新喜劇を見るかのようだ。この設定と、彼らが生活する上でのルールを読むだけでも読む価値がある。「恐縮屋」という職業も目からウロコだった。
ちょっと残念なのは、本多巧という主人公のキャラクターか。バックグラウンドがほとんど語られないので、活躍ぶりに今一つ説得力が見られなかった。