- 作者: 高田郁
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2014/08/09
- メディア: 文庫
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一柳の柳吾と芳が澪に来てほしいと言うも、既にどういう料理人になるかを決めていた澪はその依頼を断る。澪は借家に引っ越し、昼は鼈甲珠を作ると同時に持ち帰りのお菜を売り、夜はつる家を手伝っていた。友人の美緒の家が再び店を開くことになったが、家事や子育て、店の手伝いまで一人で行い苦労していた。「結び草 葛尽くし」。
澪は徒組の下級武士より少ない予算で住人分の弁当を作ってほしいと頼まれ、承諾。工夫を凝らした弁当作りを見て、つる家の料理人政吉は自信を無くす。つる家に取れたての自然薯が届けられ、政吉は妻のお臼に勧められ得意料理を作る。見た目は悪いが味が素晴らしいその料理に澪と種市は感嘆。つる屋にも出され大評判となる。一方、澪の弁当が江戸城でも話題になり、源斉の母かず枝に同じ物を作ってほしいと頼まれた。「張出大関 親父泣かせ」。
一柳の忘れ物を届けた柳吾が捕まった。それは将軍のみが食べられる御禁制の「酪」(チーズ)であり、無許可で作ったと疑われたのだ。心配する澪は、佐兵衛たちを裏切った元天満一兆庵の奉公人富三と出会い、「酪」の話から元天満一兆庵の跡取りであった佐兵衛が江戸で破滅した原因を知った。そして、登龍楼との因縁が決着する。「明日香風 心許り」。
摂津屋が澪を訪ねてきて、あさひ太夫の身請けの日が早まったことを伝えた。四千両という大金をどうやって工面すれば良いのか。澪が考えた奇策とは。そして美緒が源斉の苦しい状況を澪に伝えた。「天の梯 恋し粟おこし」。
2014年8月9日、書き下ろし刊行。
ドラマにもなった人気シリーズ最終巻。残り1冊なのに残されている問題多くないか、などと思っていたが、全ての問題が解決し、ここまで大団円で終わるとは思わなかった。色々張られていた伏線も見事なくらい回収できているし、言うことなし。
登場人物の全てに温かい視線が向けられており、名もないつる家の客にまで出番と美味しいところを用意しているのは見事としか言い様がない。文句を言いまくりながら周囲のことを考えて動いていた清右衛門に感心しつつ、しっかり笑いを取ってくれるところなんて、坂村堂も含めて本当にいいキャラクター。ポジショニングも絶妙だし、よく考えてられている。台所奉行の小野寺(小松原様)も表には出てこないがいい味を出しているし、澪のことを見守っていることもよくわかる。澪の後を継いだ政吉とお臼の夫婦も活躍するところが用意されているし、今まで出てきた料理人とは別の意味で澪と対比できるキャラクターになっているところもさすが(酒の燗なんて、飲む人じゃないと確かに味の違いがわからない)。それに源斉、よくぞそこまで言い切った! 男の中の男だ。
主人公である澪の成長ぶりも見逃せない。「名を残す料理人ではなくて料理を残す料理人になりたい」なんて、なかなか言えないなあ。この小説、いい台詞が本当に多い。種市の「どれほど無慈悲な仕打ちを受けようとも、耐えて生き抜いていれば必ずどこかで救われる」なんてみんなに聞かせたい。
全10冊、悲しいシーンも多くてどうなることかと思ったが、ここまで感動させてくれるとは思わなかった。読んだことがない人がいるのなら、すぐに手に取るべき。
澪と野江のその後も見たいし、ふきとか心太などがどう成長するのか気にかかるところだが、作者も番外編を出す心積もりなので、それを気長に待ちたい。いや、早く読みたいな、やっぱり。