平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

郄田郁『花だより みをつくし料理帖 特別巻』(ハルキ時代文庫)

花だより みをつくし料理帖 特別巻

花だより みをつくし料理帖 特別巻

澪が大坂に戻ったのち、文政五年(一八二二年)春から翌年初午にかけての物語。店主・種市とつる家の面々を廻る、表題作「花だより」。澪のかつての想いびと、御膳奉行の小野寺数馬と一風変わった妻・乙緒との暮らしを綴った「涼風あり」。あさひ太夫の名を捨て、生家の再建を果たしてのちの野江を描いた「秋燕」。澪と源斉夫婦が危機を乗り越えて絆を深めていく「月の船を漕ぐ」。シリーズ完結から四年、登場人物たちのその後の奮闘と幸せとを料理がつなぐ特別巻、満を持して登場です!(粗筋紹介より引用)

書下ろしで2018年9月、刊行。



74歳になった種市は境内で倒れていた水原東西と名乗る大坂の易者から、来年の桜を見ることが叶わないと言われて落ち込む。大坂にいる澪に会いたいと、坂村堂、清右衛門と一緒に大坂へ向かう。「花だより」。

17歳で17も年上の小野寺数馬に嫁いで、はや六年。悠馬という嫡男にも恵まれた乙緒(いつを)であったが、数馬という夫は謎であった。乙緒は二人目を懐妊したが、つわりがひどく寝込んでしまった。「涼風あり」。

大坂に戻り、唐小間物を扱う「高麗橋淡路屋」を再建した野江であったが、大坂には「女名前禁止」という掟があり、家持ちにも店主にもなれない。慣習として三年の猶予が摂津屋のおかげで認められていたが、今年がその期限だった。前の番頭の息子で、今の店の番頭である辰蔵を婿にするように勧められる野江であったが、野江にはかつて命を助けてくれた又次のことがあった。「秋燕」。

大坂で「みをつくし」の店を出して4年。家主が流行り病で亡くなり、息子は苦しんだ親父を思い出すから売ってしまうので出てほしいという。そんなとき、源斉が疲れから倒れてしまう。源斉の食は進まず、身体はなかなかよくならない。「月の船を漕ぐ」。



すぐに出るかと思ったら、4年も待つとは思わなかった。作中でも4年後の話を取り扱っているのは、あえて合わせたからか。それとも4年という月日がその後を語るのにちょうどよい年月であったからか。

既にハッピーエンドとなった作品の後日譚であるが、私はこういう作品群が好き。いつまでもダラダラと続けられるのは嫌だが、登場人物たちのその後というのはやはり気になるところである。

野江の過去のように本編では語られなかった部分も新たになるなど、単なる後日譚にとどまらないところもいい。読んでいて、ほんわかしてくるのが、この作者の真骨頂。じんわりと幸せが染みてくる。

みをつくし料理帖は、本巻が最後。残念ではあるが、さすがにこれ以上続けるのは難しいだろうし、妥当なところか。本当に面白い作品を書いてくれてありがとう。作者にお礼を言いたい。と言いながら、今のところ他のシリーズを読む気が起きないのだが。