平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高田郁『夏天の虹―みをつくし料理帖』(ハルキ時代小説文庫)

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))

小松原との縁談が進んでいた澪だったが、悩んだ末、やはり料理人として生きることを決意し、そのことを小松原に直接伝える。小松原は澪の気持ちを受け止め、己の心を犠牲にして破談とし、出世につながる別の縁談を受けいれた。再び料理人としてつる屋で働く澪だったが、今年は料理番付に載るような創作料理をしていないことに気付き、心労が重なったこともあわせ倒れてしまう。「冬の雲雀−滋味重湯」。

翁屋・伝右衛門の計らいにより、再び三方よしの日に訪れるようになった又次。澪は野江へ渡す弁当に、野江から返された蛤の片貝を添えて、自分の想いを伝えようとする。澪は又次のアドバイスから、牡蠣を使った新しい料理を作ろうとするのだが苦戦する。「忘れ貝−牡蠣の宝船」。

澪は匂いを感じることができなくなり、味覚も失ってしまった。源斉の見立てでも、いつ戻るかわからないとのこと。澪のために種市は、扇屋から2か月間、又次を借りてきた。つる屋は安泰だったが、鬱屈とする澪。「一陽来復−鯛の福探し」。

澪はまだ治らないが、明るさを取り戻した。又次はふきに料理の手ほどきをするなど、今まで表に出すことのなかった温かさを出すようになり、料理人としても飛躍した。約束の期限が近づく。さらに扇屋との約束で、もう三方よしの日にもつる屋へ来なくなるという。又次がつる屋で最後に働いた日の翌日の昼、つる屋でささやかな宴が行われた。「夏天の虹−哀し柚べし」。

好評シリーズ、第七弾。



「"悲涙"の第七弾」などと書かれているが、本当に涙、涙の連続。澪の破談だけではない。嗅覚・味覚を失う、という事態が澪を襲い、最後には本巻で一番活躍した又次に不幸が襲いかかる。多分、あれは史実通りなんだろうけれど、それにしてもこのラストはないでしょう、というぐらい悲しい展開。いくら何でも急展開過ぎ、やりすぎでしょう、と作者に言いたい。いや、面白いんですけれどね。主要登場人物から名のない客まで、出てくる人はいい人ばかりで心が温かくなる。「鯛の福探し」なんてグッとくる料理で、味だけでなく、こういう方面からのアプローチもあったのかと感心したんだが。

これで次巻は1年後ですか。そりゃ作者の都合もあるから仕方がないし、いいものを書いてもらいたいとは思うのだが、このラストで待たされるのはかなり辛い。