平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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マイクル・イネス『ストップ・プレス』(国書刊行会 世界探偵小説全集38)

ストップ・プレス 世界探偵小説全集 (38)

ストップ・プレス 世界探偵小説全集 (38)

犯罪者ヒーロー〈スパイダー〉生誕20周年を記念して、人気探偵作家エリオットの屋敷ラスト・ホールで開かれたパーティの最中、あたかも〈スパイダー〉が本の中から抜け出したかの如き怪事件が頻発、ついにはエリオットが構想中のプロットとそっくりの事件が発生する。奇人変人揃いのパーティの面々が右往左往するなか、犯人も、動機も、犠牲者さえも一向につかめぬまま、大団円に向かって物語は進んでいく。全篇が壮大なプラクティカル・ジョークともいうべきイネス畢生の大作。(粗筋紹介より引用)

1939年に刊行された作者の第4作。2005年9月、翻訳されて刊行。



マイクル・イネスといえば江戸川乱歩が『ある詩人の挽歌』で絶賛したことで有名な英国新本格派の作家なのだが、その『ある詩人の挽歌』が邦訳されたのが1993年だし、代表作『ハムレット復讐せよ』は訳が読みづらいせいかたちまち絶版になったというような状況で、邦訳に関しては恵まれない作家だった。長編だけでも45作品、うちジョン・アプルビイシリーズは32編あるそうだ。アプルビイは最後警視総監にまで出世するらしい。若島正曰く初期より読みやすいという中期以降の作品が翻訳されるとはとても思えないが(そういえば長崎出版から1冊出ていた……)。

500ページを超える大作である本作品は、義賊から名探偵になった大衆小説のヒーロー・スパイダーが、未発表の作品にあった悪戯を起こし、挙句の果てに作者であるリチャード・エリオットの屋敷に現れ、執筆中の作品の筋書きそっくりに事が運ぶという作品。知的でおかしな登場人物たちが例によってたくさん集まるし、皮肉だらけのユーモアあふれる会話が飛び交って物語は全然進行しない。元々イギリスならではのファルス・ミステリというものが苦手なのだが、本作品は作者が気の赴くままに書き散らしているのではないかと思うぐらい会話が多い。事件の方も結局ドタバタばかりで、読み終わってみると肩透かしを食ってしまう。「全篇が壮大なプラクティカル・ジョーク」という紹介文に嘘偽りはない。好きな人は好きなんだろうなあ……。

申し訳ないが、私にとっては長いだけの作品だった。年を取ってから読むと、また違う印象を持つだろうか。