- 作者: 高野裕美子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2000/03
- メディア: 単行本
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広域暴力団荒木田組の幹部が乗っていた車が、新宿で爆発した。新宿における暴力団抗争という見方が一般的だったが、新宿署暴力対策課の角田勇は、父が荒木田組とつながりのあった鶴見に疑いの目を向ける。一方、ウツボと名乗る人物が、殺人を続けていた。一見関係のない3つの事件が、意外な糸で結ばれていた。
1999年、第3回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞。2000年3月、刊行。
作者は翻訳家ということもあってか、物語のテンポは悪くないし、登場人物も過不足なく描かれている。3つの事件をうまく取りまとめているし、舞台転換も切りが良い。現実社会の問題点も上手く絡めている。犯人は途中で予想できるだろうが、結末の着地点が最後までわからず、読者を楽しませてくれる。泣ける場所も用意してあるので、登場人物に感情移入してしまうだろう。流れがスムーズ過ぎるし、心情の書き込みがやや淡泊すぎて、逆に印象に残らない欠点もあるが。
とはいえ、首をひねる箇所も多い。そもそも、ウツボがどうやって現在の彼らを知ることができたのかが大きな疑問。ちょっとネタバレだが、当時の法律だったら、彼らの名前すら知る手段がなかったんじゃないだろうか。さらにいえば、ウツボが今になって殺人に手を染める動機が不明。この手の疑問は、一度引っかかると頭から離れなくなってしまう。物語の根本的な部分であるので、明確な説明が必要だっただろう。
個人的には先の根本的な疑問があるので、失敗作といいたいところ。そこさえスルーすれば、新人の受賞作としては悪くない。