- 作者: 川中大樹
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2014/03/12
- メディア: 文庫
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2012年、第15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞。応募時タイトル「サンパギータ」。同年2月、単行本刊行。2014年3月、光文社文庫化。
尽誠会巴組組長の水谷優司が、幼馴染の神楽武雄を殺害した犯人と、同居するフィリピン人留学生シェリーの両親がフィリピンで殺害された謎を追う。
うーん、暴力団の組長が主人公で探偵役なら、大抵のことは力で解決してしまいそう。打ち出の小槌とまでは言わないけれど、警察とはまた別の大きな力を持っている組織なので、大抵のことは簡単にわかってしまう。ヤクザ路線ならこれでいいけれど、ハードボイルドを目指すなら、大きなマイナスだろう。ハードボイルドは、やせ我慢の文学なのだから。
それ以上に首をひねるのは、暴力団組長のくせに、水谷優司が善人過ぎて見えてしまうところ。一応日本刀も振り回し、暴力シーンもあるけれど、ここまで暖かい組長なんか見たことがない(ユーモア作品ならまだしも)。敵役の人物を除いたら、優司にしろ周囲の人物にしろ、善人ばかり。ええっと、これは本当に日本のお話ですかと作者に問い詰めたくなる。アットホームなドラマかい、これは。
謎自体はありがちだけど悪くないし、選評で言われるようにリーダビリティも悪くない。もう少し設定を考えるべきだったね、これは。
同時受賞は前川裕『クリーピー』なのだが、これは前川作品の方が上。解説を読むと今野敏が「この小説はファンタジーとして読むべし」と受賞を主張したようだが、なぜこれを受賞させたのか、理解に苦しむ。ご都合主義極まりない。