平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今野敏『審議官 隠蔽捜査9.5』(新潮社)

 米軍から特別捜査官を迎えた件で、警察庁長官官房に呼び出された竜崎伸也。審議官からの追及に、竜崎が取った行動とは――。さらに竜崎異動の余波は、大森署、神奈川県警、そして家族にも……。名脇役たちも活躍するスピンオフ9編を収録。(帯より引用)
 『小説新潮』2019~2022年掲載他、書下ろし1編を加え、2023年1月刊行。

 大森署から竜崎伸也を送り出し日、品川署管内で連続ひったくり事件が発生。野間崎管理官より要請されて緊急配備を行ったが、貝沼副署長のところに笹岡生安課長が戸高の件についてクレームを言いに来た。さらに刑事組対課で戸高とベテラン刑事の船井が事件を巡って喧嘩。しかも大森署管内でタクシー強盗事件が発生。新任の署長はまだ来ていない。誰もが竜崎ならどうするかを考える。「空席」。
 竜崎冴子は大田区内で女性の焼死体が発見されたというニュースを見て既視感を抱く。気になった冴子は夫の伸也にそのことを話すが、警察の捜査に口を出す必要がないと言われてカチンとくる。「内助」。
 竜崎邦彦は友人のポーランド留学生、ヴェロニカに頼まれ、アントニという男性から荷物を受け取ったが、ビニル袋の中身は白い粉末だった。「荷物」。
 竜崎美紀は通勤途中、駅で置換をしたらしい男性をつかまえて駅員に引き渡す。おかげでプレゼンに遅刻しそうになった。そのことで富岡課長から嫌味を言われる。「選択」。
 板橋武捜査一課長は、池辺渉刑事総務課長に呼び出された。捜査一課の矢坂敬藏専門官は前任の本郷部長を公然と批判するぐらいのキャリア嫌いなので、新任の竜崎部長に盾突くような真似は止めるように言ってほしいということだった。部屋に戻った板橋は矢坂を呼び出そうとするが、強盗事件が発生したので外に出ていた。「専門官」。
 佐藤実本部長が竜崎部長を呼び出した理由は、キャリアの参事官阿久津と、地方の参事官で組織犯罪対策本部長の平田清彦の仲が悪いので何とかしてほしいということだった。その日の夕方、横須賀で発砲事件が発生。阿久津、平田、池辺は竜崎部長に事件の第一報を伝えるが、通報者が高校生ということに竜崎は違和感を抱く。「参事官」。
 横須賀の殺人事件が解決した(『探花』)が、協力を得た米海軍犯罪捜査局の特別捜査官リチャード・キジマが東京都内で捜査活動をしたことについて、警察庁長官官房の長瀬友明審議官が問題視した。竜崎は佐藤本部長と一緒に審議官を尋ねる。「審議官」。
 大森署長が美貌のキャリア、藍本百合子警視正に変わってから、野間崎管理官が頻繁に大森署を訪れるようになった。野間崎は、戸高が勤務中に賭け事をする非違行為を働いているのではないかと貝沼副署長と注意した。「非違」。
 竜崎は同期の八島警務部長と一緒に、神奈川県警のキャリアだけの飲み会、通称キャリア会に出席した。信号を守るかどうかという話が外に漏れ、問題となる。「信号」。

 隠蔽捜査シリーズのスピンオフ第三弾。大森署の面々だけではなく、竜崎家の家族、神奈川県警の面々にもスポットライトが当たった短編が編まれている。気のせいかもしれないがあっさりめの作品が多いし、複雑な謎解きがあるわけではないが、面白さは変わらない。もちろん、今までのシリーズ作品を読んでいる人前提の話ではあるが。
 毎度のことながら、原理原則を守るという竜崎にかかると、すべての絡み合った糸が簡単にほどけていくという展開なのだが、飽きが来ないのはキャラクター造形の巧さなのだろう。
 個人的な今回のベストは「内助」。一本取られる竜崎の姿が面白い。