平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今野敏『棲月 隠蔽捜査7』(新潮社)

棲月: 隠蔽捜査7

棲月: 隠蔽捜査7

私鉄と銀行のシステムが次々にダウン。不審に思った竜崎はいち早く署員を向かわせるが、警視庁生安部長から横槍が入る。さらに、管内で殺人事件が発生。だが、伊丹から異動の噂があると聞かされた竜崎はこれまでになく動揺していた――。(帯より引用)

小説新潮』2016年10月号〜2017年8月号連載。2018年1月、単行本刊行。



「隠蔽捜査」シリーズ長編第7作。帯にもあるとおり、竜崎伸也、大森署最後の事件である。「!?」と書いているからただの煽りじゃないかと思わせながらも、今回は本当である。本作は言ってしまえば、竜崎のやり方を完全にくみ取った署員が、竜崎とともに難事件に立ち向かう話。私鉄と銀行のシステムがダウンしたからといって、本社が管轄内にあるわけでもないのに署員を派遣させるなんてどれだけ先読みがすごいんだ、とあきれるスタート。警視庁の生安部長から横槍が入るのも当然だろう。まあ、いつものパターン。それから不良少年グループのリーダーだった男がリンチにあって殺される。殺人事件ということで大森署に捜査本部が置かれ、警視庁から伊丹たちが登場。少年事件が絡むので、前作活躍した根岸と毎度お馴染み戸高が活躍。ただ、聞き込みを続けるうちにあっという間に真相に迫ってしまうというのはつまらない。犯行を犯す側も、そして捜査をする側も、こんな都合良く行くわけ無いでしょう。ご都合主義、ここに極まる。シリーズ物だからそれなりに読むことができたが、もしこれが第一作だったら一刀両断されていただろう、というぐらい大雑把なストーリーである。

本作のメインは、異動があるかもと聞いて動揺する竜崎の姿。国家公務員である以上、数年での転勤は当然のこと。原理原則主義ばかりだった人間に感情が交じるようになったかと、竜崎の人間的成長を見てしまった。肝の据わっている妻の冴子や、ポーランドに留学する息子の邦彦も含め、家族も皆次のステージに進もうという姿が楽しめる。こんな堅物な融通の利かない男に、どうしてこんなできた妻や子供がいるのか、不思議で仕方が無い(苦笑)。
本作は新展開へ進むためのステップとなった。ラストシーンが、まさにそれを表しているだろう。今までの作品と比べると面白味に欠けるところはあるものの、次作への溜めと思うことにしよう。個人的なこと言うと、戸高と逢えなくなるのは残念だが。