平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊藤秀雄『明治の探偵小説』(双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集第56巻)

ポーの「モルグ街の殺人」(1841)に始まったミステリーが、明治になってようやく日本にも移入される。だが、当時数多く書かれた創作や翻訳は、いつしか歴史のなかに埋もれてしまった。それらを実見し、明治の探偵小説の全貌を初めて明らかにした待望の研究書。初の文庫化なる。(裏表紙より引用)



黒岩涙香研究家として名高い伊藤秀雄が、黒岩涙香を初めとする、明治期における探偵小説史をまとめ上げた労作。あの中島河太郎でさえ、明治期の探偵小説は、涙香や当時の文壇小説家による探偵小説に近い作品にしか触れなかったのに、作者は翻訳、探偵実話、創作に至る明治期の隠れた巨大な流れを調べてまとめ上げた。ある意味読み捨てられてきたような作品群まで調べてきたその労力に脱帽するし、流行なども含めて纏められているのだから、もう言うことはない。超一級の価値がある資料、評論だろう。

膨大ともいえる明治期の作品の数々が紹介されているのだが、粗筋を読んでもぜひ復刊してくれ、と思えるほどの作品が無いことは残念だが、それは無い物ねだりだろう。ただ、涙香全集は出してほしいと思う。選集でもいいけれど。

一応『昭和の探偵小説』『近代の探偵小説』は持っていたはず。『大正の探偵小説』があったかな……。