- 作者: 山田風太郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1997/08/01
- メディア: 文庫
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『オール讀物』1978年5月号〜1979年1月号連載(1978年9月号休載)。1979年2月、文藝春秋より単行本刊行。
プロローグと言える「弾正台大巡察」。日本でもギロチンがあったという話だが、ここからすでに伏線を張っているところはすごい。
フランスから来た香月の愛人、エスメラルダが登場する「巫女エスメラルダ」。これまたプロローグその2ともいうべき話であり、ようやく登場人物が出そろう。
築地ホテルの螺旋階段で腹を切られて死んだ小巡察。容疑の濃い人物は、塔の上にいた。「怪談築地ホテル館」。これは絵を見た瞬間、アッと言ってしまった。この時代ならではのトリック。
五稜郭の戦いののちアメリカに逃げたはずの唐津の殿様、小笠原壱岐守の生霊が出て妾を妊娠させる。さらに反壱岐派の家臣の乗った人力車が神田川に落ちて溺死するも、人力車の轍しかなく、車夫の足跡がなかった。「アメリカより愛をこめて」。絵が無いので想像しかできないが、それでもなんとなくわかった気になってしまう。
岩倉具視の腹心の男が、英大場市の欄干で首つり死体となって発見される。二人の容疑者はどちらも片手が使えず、そして二人ともアリバイがあった。「永代橋の首吊り人」。これもトリックには素直に感心。
遠眼鏡で女の足が切断されたという目撃証言があり、駆けつけてみると切断された足が家の前に立てかけてあったのだが、誰の足かわからない。「遠眼鏡足切絵図」。本当に可能かどうか疑問なところもあるが、強引に押し切られてしまった。
陸軍が絡む汚職事件の内偵中、邏卒が張り込みしていた今戸の寮(別荘)で、糞尿にまみれ首を切断された大男の死体が発見された。大男の正体は不明。「おのれの首を抱く屍体」。何ともスッキリしない結末だが、それもまた作者の狙いのうちなのだから何ともはや。
エスメラルダがついに捕まった。作品全体のエピローグ、「正義の政府はあり得るか」。
山田風太郎にしては珍しいぐらい機械トリックにあふれた作品集となっているが、明治初期ならではの混乱もしっかりと書かれていて、非常に興味深い。さらにある驚愕の仕掛けが張り巡らせられているところには非常に感心した。歴史的事実と絡め合わせながらもこれだけの仕掛けを張り巡らせられることができるのだから、やはり作者はすごい。しかも連載形式なのに。
気になるのは、エスメラルダのカタカナ語が非常に読みにくいこと。あれで大分損をしているのではないか。
それを抜きにしても、どことなく読みづらいのはなぜなんだろう。感心はしたのだが、面白いかと言われると、今一つというのが正直なところ。何かもどかしいというか、何か抜けているというか。それが何かは分からないが、山田風太郎が求めたエンタテイメントとは別のところに作品があるような気がして仕方がない。
傑作と言われる理由は分かったけれど、自分には合わなかった。それ以外、言い様がない。