- 作者: 小野博通
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1993/05
- メディア: 単行本
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1993年、第13回横溝正史賞優秀賞受賞作。1993年5月刊行。
作者は現役のフリー外科医(当時)であり、ダイエット本などの著書がある。また1985年には、カッパノベルスから『腎移植殺人事件』というミステリを出版している。
さすが外科医というだけあって、大統領を手術するシーンの臨場感はなかなかのもの。キメラ型血液型を利用するトリックの説明もこなれており、自分の職業知識を十分に活かした作品と言える。とはいえ、大統領を殺害するのならなにもこんな複雑なトリックを用いなくても、最初の毒針を使うところで別の毒を使えばよかったんじゃないかと思うのは私だけだろうか。
作品全体を見てみると、主人公である岸田をスーパーマンにしてしまった綻びがあちらこちらに目立つ。大統領を手術したからといって、政府関係者を通さずに記者会見を開いてぺらぺら喋るし、外交問題になりかねない総理大臣との会話を勝手に話すし、挙げ句の果てに事件の謎を解くとまで言い放つ有様。誰が考えたって許されるものではないのだが、普通にヒーローに収まっているのはどうしたものか。事件前に大統領や家族から食事を招かれるのは、手術時における相手への信頼を示すための前振りとしてわからないでもないが、大統領の娘ニコラを連れて『ローマの休日』のように京都観光旅行させるのは、事件と何の関連のないエピソードであり、不必要な部分である。
最後に犯人へ自供を迫るシーンは、人権侵害だ、脅迫による自白であって無効だ、などと色々な文句が出るだろう。それに犯人像や動機も無理がある。
いってしまえば、登場人物ばかりでなく、作者も調子に乗りすぎて筆をすべらせた、というのが本作品の評価である。人物造形や展開も安っぽい劇画を見ているようであり、優秀作止まりも仕方が無いところ、だろうか。