平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

早坂吝『誰も僕を裁けない』(講談社ノベルス)

誰も僕を裁けない (講談社ノベルス)

誰も僕を裁けない (講談社ノベルス)

「援交探偵」上木らいちの元に、名門企業の社長から「メイドとして雇いたい」という手紙が届く。東京都にある異形の館には、社長夫妻と子供らがいたが、連続殺人事件が発生! 一方、埼玉県に住む高三の戸田公平は、資産家令嬢・埼と出会い、互いに惹かれていく。そして埼の家に深夜招かれた戸田は、ある理由から逮捕されてしまう。法とは? 正義とは? 驚愕の真相まで一気読み! 「奇才」の新作は、エロミスと社会派を融合させた前代未聞の渾身作!!(粗筋紹介より引用)
2016年3月、書き下ろし刊行。



メフィスト賞作家、早坂吝の新作だが、早坂を読むのは初めて。表紙のイラストが今時のラノベ風なので引き気味だったが、中身は案外まともだった。

エロミスなどと謳っているが、過去にはソープ嬢の探偵もいたし、目の付け所は悪くないがそこまで珍しい話でもない。エロミスというのならもっとエロシーンがあるかと思ったが、残念ながら描写も淡泊だし、いまいち。社会派、というほどの問題提起をしているわけでもない。とまあ、出版社の惹句に文句を付けた後、中身に触れてみる。

九枚の扇形が放射状に突き出た円を、二枚重ねた形の館で、どの扇形に行くためにも一度円形ホールを経由しなければならず、一階と二階を行き来できるのはホールの中心にある螺旋階段のみ。いかにも、という感じの館だし、作中でも揶揄されているぐらい。まあ、これを使ってトリックを仕掛けますよ、と見え見えだし、事実連続殺人事件が発生。まあ、事件のトリックと犯人当てははっきり言って添え物。むしろ作品の肝は、上木らいちの視点で語られる連続殺人事件とは別にある、戸田公平の章がどういう風に重なり合うかという点。一部は想像付いたのだが、さすがに全部は予想つかなかった。それだけでも意外だったが、さらに結末まで読んでかなりびっくり。なるほど、こういう着地点のミステリがあるのか、と感心した。うん、この構成をよく考えた、と言いたい。作者の狙いは、見事成功した、と言っていいだろう。

ミステリもひねるといろいろ出て来るな、と素直に感心した。この手の作品ばかり読まされるとさすがに腹が立つだろうけれど、たまに読む分にはいいかもしれない。