平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐々木丸美『崖の館』(講談社文庫)

崖の館 (講談社文庫)

崖の館 (講談社文庫)

暗く荒涼たるさいはての海。冬の嵐は信頼も理性も憧れも、殺意さえも白一色の下に埋めつくす。断崖の白い館で二年前、美しい女性の二十歳の生命を奪った悪魔は、そこに集まったいとこたちのうえに、ふたたび邪悪な影を投げかける。隔絶された“雪の密室”に起こる奇怪な事件を通して、残酷な愛の行くえを綴る異色のファンタジック・ミステリー。(粗筋紹介より引用)

1977年1月、講談社より刊行された作者の第二長編。大幅に加筆修正のうえ、1988年1月文庫化。



舞台設定は典型的な雪の山荘もの。事件もあるし、トリックも一応ある本格ミステリ作品に仕上がっているのだが、やはり佐々木作品らしく、幻想的というか観念的というか、情景描写と心理描写のみを優先させたような書き方の作品に仕上がっているため、ミステリを読んだという気が全くしない。殺人という行為を通した愛憎物語であり、その動機は理解できても納得できないもの。少女って残酷なのよ、って言うがために作品を作っているような気がしなくもない。

読んでいるといらつくところも多いだろう。舞台や人物の背景は最小限しか語られておらず、普段何をやっているのか、それぞれがどういう関わり方をしているかなどが全く書かれていない。登場人物の親たちは何をやっているのか、毎年集まることに異議はないのか、などと突っ込みたくなるような要素も多い。そういう俗世間的な描写を排除して作品を仕上げているのだから、文句をつけるところではないのだが。好きな人は好きなんだろううが、駄目な人には全く駄目な、読者を選ぶ作品。登場するのが10年は早かったんだろうね。こういう読者を選別するような作品が受け入れられる土壌がまた少なかったころに書かれた作品だから。