平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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垣根涼介『午前三時のルースター』(文春文庫)

午前三時のルースター (文春文庫)

午前三時のルースター (文春文庫)

旅行代理店に勤務する長瀬は、得意先の中西社長に孫の慎一郎のベトナム行きに付き添ってほしいという依頼を受ける。慎一郎の本当の目的は、家族に内緒で、失踪した父親の消息を尋ねることだった。現地の娼婦・メイや運転手・ビエンと共に父親を探す一行を何者かが妨害する……最後に辿りついた切ない真実とは。(粗筋紹介より引用)

2000年、第17回サントリーミステリー大賞と読者賞のW受賞作品。2000年4月、文藝春秋より刊行。2003年、文庫化。



いわば自分探しの冒険小説であり、少年の成長物語。ベトナム行きまでの、長瀬と慎一郎、それに友人である源内との絆結び。ベトナムにおけるメイやビエンとの新たな出会いに友情、そして妨害に立ち向かうサスペンス。流れるようなストーリー展開と、主人公や重要登場人物のキャラクター造形、ベトナムの描写は見事。この文章が新人の手によるものとはとても思えないぐらいに達者であるし、面白い。逆に敵側の登場人物や妨害の動機などについてはやや弱い。これは枚数制限によって省略せざるを得なかった部分だろう。この枚数で、登場人物を配置し、ベトナムを舞台とするとなると、この程度の規模の事件で収めるしかなかったと思われる。特に、曰くありげな主人公である長瀬の、過去についての描写がほとんど無かったことは残念であった。

とはいえ、読んでいる途中ではそんな不満は起こらないだろう。少なくとも慎一郎が成長する姿には清々しさが感じられるし、メイやビエンたちと友情を育むその過程は充分に感動できるものである。これはW受賞も納得の作品である。