平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東野圭吾『真夏の方程式』(文藝春秋)

真夏の方程式

真夏の方程式

小学五年生の柄崎恭平は、両親の仕事の都合で夏休みの1週間を伯母一家が経営する玻璃ヶ浦の旅館で過ごすこととなった。帝都大学物理学科准教授の湯川学は、海底鉱物資源の開発計画における電磁探査の仕事でこの地を訪れており、電車の中で恭平と話をしたことから同じ旅館に泊まることを決めた。翌日、もう一人の宿泊客である塚原正次が岩場から落ちて死んでいた。塚原は、昨日行われた開発計画の企業と海を守ろうとする地元の人間が話し合う説明会に参加しており、夜に行方不明となっていた。元警視庁の刑事であった塚原が畑違いである説明会に参加した理由は不明だが、前後の状況から単なる事故死と思われた。しかしかつて塚原の部下だった警視庁捜査一課多々良管理官は自らの権限で遺体を持ち帰り、解剖の結果死亡原因が一酸化炭素中毒と判明した。なぜ塚原はこの美しい海を誇る町にやってきたのか。湯川が現地にいると知った多々良からの命令で独自に捜査をすることとなった草薙と内海は、16年前に塚原が逮捕した元殺人犯である仙波の行方を追う。

週刊文春』2010年1月14日号〜11月25日号連載。ガリレオシリーズ最新作。



久しぶりに読むガリレオシリーズだが、この小説を一言でいうと、「そして少年は大人への階段を一歩進んだ」というところだろうか。まあ、殺人事件で大人の世界を知るというのも嫌だろうが。謎解きの部分だけを見るとさほど面白いものではないのだが、殺人事件を巡る人間模様という点では実に面白い。科学というものに対する視線、子供の成長に対し大人がどうすべきか、などといった点に対する東野なりの一つの答えなのだろう。この作品の大きな目玉は、子供の成長物語。正直言って、湯川が子供にここまで接するというのが想像できないのだが、そんな違和感ぐらいかな、この作品で首をひねったのは。

先にも書いたが、謎解きという点ではそれほど面白味はない。動機探しという点ではちょっと面白かったが、解決を読むとちょっと切なくなってくる。善意が別の人にとっては凶器となることを、人は覚えておく必要があるだろう。

書き下ろしの『麒麟の翼』と比べるとよっぽどいい。前作ではかなりがっかりしてしまったが、まだまだ東野ブランドは信用できると思った方がいいだろう。次は『マスカレード・ホテル』が楽しみだ。