- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/10/01
- メディア: 単行本
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戦力外通告を受けたばかりのプロ野球投手、柳沢忠正の妻・妙子がスポーツクラブの駐車場で殺害された。犯人はすぐに捕まったが、妙子が生前に置時計を買った理由が謎として残った。専属トレーナー宗田を通して柳沢と知り合った湯川は、柳沢の投球フォーム等を科学的にチェックするようになる。「第二章・曲球る(まがる)」。
アンティークショップを経営する磯谷若菜が自宅で襲われ、意識不明の重体となった。発見並びに通報は若菜の夫、磯谷和宏とその部下だったが、磯谷が訪れた理由は、若菜の双子の妹、御厨春菜からの依頼だった。長野にいた春菜はテレパシーで、若菜の危機を知ったというのだ。草薙と内海は当然テレパシーなど信じないが、湯川は春菜と共にテレパシーの実験を始める。「第三章・念波る(おくる)」。
フリーライターの長岡修が殺害された。長岡は元文部科学大臣で、「スーパー・テクノポリス計画」の推進者である大賀仁策代議士のスキャンダルを追っていた。草薙と内海はやがて、一人の容疑者を見つける。小芝伸吾。湯川がいる帝都大学を退学し、金属加工製造会社に勤めていたが、現在は行方不明になっていた。そして小芝は高校時代に物理サークルに所属し、OBである湯川に指導を受けていた。その指導で作ったのは"レールガン"だった。「第四章・猛射つ(うつ)」。
2012年10月、全作書き下ろしで文藝春秋より刊行。ガリレオシリーズ第8作。
テレビでも人気となったガリレオシリーズの短編集。前作『虚像の道化師』からわずか2ヶ月後の刊行である。
いつも通りの湯川と草薙+内海のやりとりや科学トリックと、ある意味パターン化された図式ではあるが、それでも読んでいて面白いのは、登場人物や事件の背景の描き方が上手いからだろう。同じようなストーリーを続けて読んでも飽きが来ない、というのは簡単なようで非常に難しいこと。やはり東野圭吾は巧い作家である。
本作品集で特に力が入っていると思われるのは、「第四章・猛射つ(うつ)」。湯川の教え子が科学を利用して殺人に手を染めようとする話であり、それに対する湯川の行動と発言が見物。正直このままでは勿体ないと思わせる設定であり、さらにこの後どうなったんだともやもやさせる終わり方でもあった。後に長編化されているのも、納得である。これはドラマ化されると、映えるだろうなあ……。
手軽に読めて面白く、それでいてトリックに驚き、包括されている話に深く考えさせられてしまう。素直に脱帽である。