- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/08/10
- メディア: ペーパーバック
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最近、羽虫が飛び回るような音に悩まされている脇坂睦美の上司である早見達郎営業部長が、自宅マンションから飛び降りて死亡。草薙と内海は捜査で、3ヶ月前に不倫相手が自殺したなどを突き止めるも、殺人の証拠は見つからなかった。その後、風邪を引いた草薙は病院で暴れた男を取り押さえるも、ナイフで刺されてしまい入院。警察学校の同期である所轄の北原から、犯人の加山幸宏が幻聴に悩まされていたこと、さらに早見と同じ会社の営業部であることを知る。「第二章・心聴る(きこえる)」。
大学のバトミントン部の友人であり、地元の町長でもある谷内祐介が結婚するので、山中のリゾートホテルまで来た湯川と草薙。ホテルの上にある別荘で、有名作詞家の桂木武久と妻の亜紀子が殺害された。道が土砂崩れで封鎖されたため、結婚式に来ていた熊倉警察署長の依頼で現場を見た草薙と湯川。桂木は弟子で音楽プロデューサーの鳥飼修二が自身の詩を盗作したと主張し、別荘で話し合うこととなっていたため、鳥飼が疑われる。一方湯川は、現場の状況から発見者である娘の多英に疑いの目を向ける。「第三章・偽装う(よそおう)」。
劇団「青狐」主宰で俳優の駒井良介をナイフで刺して殺害した、元恋人で脚本家兼女優の神原敦子は、駒井の携帯電話を利用してアリバイを作るとともに、同じ劇団の女優・安部由美子とともに第一発見者となる。草薙と内海は、捜査の過程で神原のアリバイにトリックがあると判断。一方、かつて神原が舞台の脚本を書く上で知り合い、劇団のファンクラブ特別会員となっている湯川は、なぜ神原が劇団の小道具であるナイフを使ったのか、疑問を抱く。「第四章・演技る(えんじる)」。
『オール讀物』他掲載。2012年8月、文藝春秋より刊行。ガリレオシリーズ7作目。
草薙ないし内海が湯川に捜査の協力を依頼し、主に科学知識を用いて事件を解決する、というパターンはそれほど変わらない。ただ、『ガリレオの苦悩』の時にも書いたが、湯川や草薙に血が通うようになったため、物語に深みが増している。そのプラスアルファがあるからこそ、犯罪と謎、解決が映えてくるのであり、登場人物の人生にもスポットが当てられ、読後の余韻が読者に残るようになる。
「第一章・幻惑す(まどわす)」では今でも続く新興宗教の問題にスポットを当ててているが、たまたまトリックを思いついて舞台を設定しただけに過ぎないとしても、時事的な話題も取り入れるあたり、作者に余裕が出てきた証拠だろう。
「第四章・演技る(えんじる)」は珍しい倒叙物。裏に隠された動機などが実に興味深く、本作品中のベスト。
やはり東野圭吾は、読者を飽きさせないツボを完全につかんでいるのだろう。シリーズ物でも飽きが来ないというのはさすがだ。