- 作者: 高野和明
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/03/30
- メディア: 単行本
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父の遺志を継ぐ大学院生と、一人息子のために戦い続ける傭兵。交わるはずのない二人の人生が交錯するとき、驚愕の事実が明らかになる。それは、アメリカの情報機関が察知した、人類絶滅の危機――。(帯より引用)
『野性時代』2010年4月号〜2011年4月号連載。2011年3月刊行。
新刊だと2007年の『6時間後に君は死ぬ』以来? 久しぶりに見た名前なので、思わず買ってしまいました。この作者だからはずれはないだろうと思っていたが、ここまで面白いとは思わなかった。590ページの大作ながら一気に読み進めてしまうストーリー。手に汗握る先の読めない展開、わかりやすく咀嚼されているため思わず読み込んでしまう学術的なストーリーの補強部分、極限に追い込まれた人間たちのドラマ、大きな不安とそれ以上に輝かしい未来を感じさせるラストなど、エンタテインメントとして超一級品。しかもこれが書下ろしではなくて雑誌連載だというところにも非常に驚いた。作者は事前に詳細な計画図を書いていたのだろう。元々文献を自らの舞台にわかりやすく取り込む腕は『13階段』でも見せていたが、謝辞や参考文献に並べられたこれだけの数の内容を違和感なく小説世界に取り込み、読者にわかりやすく提供できる腕は本当に感心する。1年間も連載しているのに、ブレというものが全く感じられない。
とはいえ、ちょっとなあという部分が無きにしも非ず。うーん、困った。これ、どこまで書いていいのだろう。なぜここまで綱渡りな計画を立てなければならないのかというところには首をひねるし、誰かが計画の参与を断っていたらどうしていたのだろうという疑問もある。また古賀研人には李正勲がいなかったらどうなっていただろうと思わせるほどだったのだが……。まあ、人の心理を含めてそこまで読み込んでいたのだったら、恐れ入るしかないのだが。とはいえ、流れ弾が当たる可能性もあったわけだし……。そんなところまでつつくのは野暮か。ただ、ミックの取り扱いは可哀想だと思う。
この作品、主要登場人物は男ばかりなのだが、実は女性の存在があってからこそということに気付かされる。研人の友人である土井の発言「強いオスが選ばれるのは生物学的な宿命」という言葉が物語の全体を支配している。多分これこそが世界の真理ということなのだろう。
ためらうことなく傑作と言える作品だろうし、おススメ。作者の代表作になるだろう。今年の話題作という評判に偽りはない。