平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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松田美智子『女子高生誘拐飼育事件』(幻冬舎アウトロー文庫)

女子高校生誘拐飼育事件 (幻冬舎アウトロー文庫)

女子高校生誘拐飼育事件 (幻冬舎アウトロー文庫)

誘拐犯の自宅に監禁された十七歳の女子高校生はいかにして性の虜になったのか? しかも逃げる機会はあったのに、少女が逃げなかったのは犯人への恐怖か、憐憫か? <淫獣>とまで呼ばれた中年男の克明な犯行日記をもとに、親子ほどをも違う擬似カップルの半年間の異様な同居生活とそれぞれの不可解な心理の謎に迫る衝撃のノンフィクション力作!(粗筋紹介より引用)



本作は、「籠の鳥事件」と呼ばれた事件をノンフィクション化した作品である。作者の意気込みは色々と書かれているが、内容としては日記や公判記録などを基にしたドキュメントであり、誘拐された女子高生の心理などに鋭くメスを入れるなどといった深い考察は見られない。悪い言葉で言ってしまえば、覗き趣味本意の作品となっており、出来の悪いエロ小説以外の何ものでもない。

この作品の不可思議なところは、所々で現実と違うことを書いていること。なぜ事件の起きた年を隠すのかもわからないし、この事件の犯人に科せられた懲役の年数も違うし、そもそも一審で確定しているわけでもなく控訴・上告している(上告は後に取り下げ)。最後に被害者のその後も書かれているが、それすらも本当のことかどうか疑問だ。所々で嘘を書いているため、この作品のノンフィクション性を下げる結果となっており、そのことがかえってこの作品の白々しさを浮き彫りにしている。

嫌な言い方をすると、デビュー作品ということで、昔話題に上った事件を取り上げることで、ああ、あんな事件があったかなという読者を対象にしつつ、さらに監禁ものの好きな男性読者に手を取ってもらうよう計算したのではないだろうか。“なぜ”逃げなかったのかという点について、もっと深く掘りさげて欲しかった。