- 作者: 本岡類
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2001/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
DIY店「パレット・ホームセンター」の社長・斎藤晴彦の一人息子が誘拐された! 犯人は三千万円の身代金を要求、巧妙な受け取り方法を画策する。偶然受け渡し場所に居合わせた将棋棋士・水無瀬翔五段と奨励会時代の後輩・安野好平に誘拐の嫌疑がかけられ、捜査は混迷。安野の頼みで水無瀬自身も事件の解明に乗り出すが、やがて、安野は奇怪な殺人事件の犯人として逮捕されてしまう。水無瀬は後輩を救い出せるか?
達意のトリックメーカー・本岡類が贈る、極上の本格推理。棋士探偵・水無瀬翔シリーズ最高傑作。(粗筋紹介より引用)
2001年1月刊行、書き下ろし。
水無瀬翔五段シリーズ第四作。「著者のことば」で、「テーマからプロット、トリックまで、全てが上手くいきました」と書くぐらいの自信作である。
本作品のテーマは、敗者は「不要」の存在なのか。もちろん、勝者がいるからこそ敗者がいるわけなのだから、敗者そのものが不要ということではない。しかし敗者となって舞台から去ってしまった者は、誰からも省みられることなく、静かに消えていく存在なのだろうか。水無瀬自身もそんな存在だ。奨励会を勝ちあがりプロになることができたものの、順位戦では好成績を収めるだけで勝ちあがることができず、足踏みしたまま数年が経過した状態である。本書ではそんな弱者の立場に置かれた人たちの苦悩が描かれている。
事件の方は誘拐事件から奇怪な殺人事件へと続く。作者曰く「この作品は、大きな謎と小さな謎の組み合わせからできています。小さな謎のほうは、もしかすると推理能力に長けた読者には見当がつくかもしれません。しかし、大きな謎のほうは、まずは絶対に解けないでしょう。しかも大きな謎を成立させている“大きなトリック”は、現実社会の中でも使用可能なのです」と自信たっぷりにいうほどのトリック。確かにこれはしてやられた。このトリックは思いつかないし、想像もできない。それでいて、確かに実現は可能。警察が本気で捜査に乗り出したとき、すぐにわかってしまうのではないかという気がしないでもないが、いずれにしてもこれはアイディア勝ちだろう。
タイトルにある“「不要」の刻印”という社会的テーマと、トリックが見事にかみ合った傑作。シリーズものだからといって、油断しちゃダメだな。