平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エド・マクベイン『キングの身代金』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

キングの身代金 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

キングの身代金 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

グレンジャー製靴会社の重役ダグラス・キングは、事業の不振を利用し会社乗っ取りを画策していた。必死に金を都合し長年の夢が実現しかけたその時、降って湧いたような幼児誘拐事件が持ちあがった! しかも誘拐されたのはキングの息子ではなく、犯人は誤って彼の運転手の息子を連れ去ったのだ。犯人にとっては誰の子供絵も構わなかった――キングから50万ドルの身代金さえ奪い取れば。キングは逡巡した。長年の夢か、貴重な子供の命か……。87分署の刑事たちが乗り出したのはちょうどその時だった。誘拐事件に真っ向から取り組んだ力作!(粗筋紹介より引用)

1959年作品。1960年、ハヤカワ・ポケットミステリにて翻訳。1977年9月、文庫化。



87分署シリーズの代表作として必ず挙がる一作。「ニューヨーク・タイムズ」のアンソニー・バウチャーが1959年度のベスト・ミステリに選んだ一冊。誘拐ミステリを選ぶとき、必ず上がる作品。黒澤明の映画『天国と地獄』の原作。犯人側があれを使っている。とまあ、その程度ぐらいは知っていたのだが、実は読んだことがありませんでした。やっと手に取ってみた次第。

読んでみると驚いた。確かに誘拐ミステリなのだが、警察側と犯人側の攻防というよりも、息子の代わりに運転手の息子が誘拐されたことによるキングの内面を描くことがメインとなっていることにである。自分の長年の夢をかなえるか、子供の命を救うか。究極の選択ではあるのだが、現代だったら報道の影響も考えて子供の命を救う一択になるところじゃないだろうか。そのあたりには時代の差を感じた次第である。

87分署シリーズなので、当然キャレラたちの活躍も描かれている。それはそれで面白いし、安心するのだが、このテーマだったら誘拐の部分をもっとふくらました別の作品にした方が面白かったんじゃないかと思ってしまう。まあ、87分署シリーズだから、警察側の活動はこの程度の描写で済んだということもあるのだが。

誘拐ミステリの傑作だったが、イメージは違っていたな。とりあえず代表作を読み落としているという状態を解消できただけでも満足。