- 作者: 連城三紀彦
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2010/11/01
- メディア: 文庫
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その事件は、小川香奈子の息子の圭太が、スーパーで連れ去られそうになった出来事から始まった。幼稚園での信じられない誘拐劇。人質の父親を名乗る犯人。そして、警察を嘲笑うかのような、白昼の渋谷スクランブル交差点での、身代金受け渡し。前代未聞の誘拐事件は、人質の保護により、解決に向かうかのように思われた……。だが、それはこの事件のほんの序章に過ぎなかった。二転、三転する事件の様相は、読者を想像を絶する結末へ導く。読書界で話題沸騰の長篇ミステリ、待望の文庫化。(下巻粗筋紹介より引用)
2007年1月から2008年10月にかけて地方紙(南日本新聞、河北新報、苫小牧民報、佐賀新聞、神奈川新聞、新潟日報、宇部日報、信州日報、福井新聞、名古屋タイムズ、北日本新聞、下野新聞、日高新報、十勝毎日新聞、奈良新聞)にて順次連載。2008年10月、角川春樹事務所から単行本刊行。加筆訂正の上、2010年11月、文庫化。
出版時期が悪くて年間ミステリベストからは外れているものの、『ミステリが読みたい!』(早川書房)2010年版で第1位になり、本格ミステリ大賞で最終候補作となった作品。ひとことで言えば誘拐ミステリだが、あの連城が単純な作品を書くはずもない。「お父さん」と名乗る誘拐未遂犯、警察の介入を何とも思わず、最初は身代金すら要求しようとしない犯人、そして白昼の渋谷での受け渡し。誘拐される側の複雑な家庭の事情も含め、一癖も二癖もある誘拐劇が繰り広げられる上巻。これだけでもすごいのに、下巻になると犯人側の一人による誘拐劇の裏側が語られる。それすらもすべてが真実でないのだから、いったい何を信じたらよいのやら。ここまで二転三転を繰り返すミステリもすごい。
ただ、上巻の派手な展開に比べると下巻があまりにも地味で、読みごたえはあるものの違和感は否めない。そして最後は蛇足という気がしなくもない。もちろんここまでが作者の狙いなのだろうから、それを言っちゃダメなんだろうが。ここまで読んで、初めてタイトルの絶妙さもわかるわけだから。
ただなあ、擦れたミステリファンなら喜ぶだろうが、恋愛小説等の連城が好きな読者からしたら、ポカンと口を開けるかもしれない。誤解を恐れずに言うと、やりすぎ、ひねりすぎ。そういう文句が出るところも含めて、作者の掌なんだろうが。