平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高田郁『花散らしの雨 みをつくし料理帖』(角川春樹事務所 時代小説文庫)

花散らしの雨 みをつくし料理帖

花散らしの雨 みをつくし料理帖

神田御台所町にあった店が焼かれてしまったため、武家屋敷も近い元飯田町の九段坂に移った料理屋「つる屋」。酒が出ないのが難点だが、澪の作る料理が受け繁盛していた。主である種市、母代わりであるご寮さんこと芳、同じ長屋に住むおりょうだけでは忙しすぎるので、新たに下足番として「ふき」という少女を雇い入れた。真面目に働くふきは、澪をはじめとした皆に可愛がられる。しかし、かつて嫌がらせを仕掛けてきた「登龍楼」で、澪が創作中だった料理と同じものが出されるようになる。しかも「つる屋」より早く……。「俎橋から―ほろにが蕗ご飯」。

店の近くで倒れていた房州流山の酒屋・相模屋の奉公人留吉を助けた澪たち。主人紋次郎が作った白味醂の味を絶賛した芳は、上方で売ることを勧めるとともに、売り手先への紹介状を書く。是非とも礼をしたいという留吉に、澪はこぼれ梅と呼ぶ味醂粕を頼む。花見の時期、吉原「翁屋」の料理人である又次が澪のところへやってきて、あさひ太夫のために金柑の蜜煮を作ってほしいと頼む。もしかしたらあさひ太夫、幼なじみである野江に何かあったのではないか。「花散らしの雨―こぼれ梅」。

今でも神田金沢町に住んでいるため、半刻(1時間程度)もかかるつる屋から帰るためにはどうしても店を早仕舞いしてしまう澪。戯作者で馴染みの客でもある清右衛門は、店から近くて自分が持っている長屋への引越を勧めるが、江戸に来てようやく心を通わせるようになったおりょう達と離れるのを芳は嫌がるのだが……。そんなとき、おりょうの一人息子である太一が麻疹にかかった。おりょうは看病に専念し、店は口入れ屋の母である老婆・りうが手伝った。太一がようやく治りかかったと思ったら、今度はおりょうが麻疹にかかる。「一粒符―なめらか葛饅頭」。

江戸では珍しい夏の蛸と胡瓜を使った「ありえねえ」が評判になるが、逆に侍の客は足を運ばないようになっていった。不思議に思う澪達。馴染みであり、おりょう達も視ていた町医者永田源斉がつる屋に来ていたとき、自分のことを睨んでいる娘に澪は気付く。彼女は両替商「伊勢屋」の娘・美緒だった。伊勢屋の娘といえば、おりょうの旦那である大工の伊佐三が、縁談があるといって普請の初の棟梁仕事を頼まれたにもかかわらず、縁談が壊れたという話を聞いていたが……。「銀菊―忍び瓜」。

人気シリーズ第二弾。2009年10月、書き下ろし。



前作で火事にあったつる屋が店を移ったところから始まる。ふき、清右衛門、りう、美緒などの登場人物も増え、物語も料理中心の世界から、美緒を取り巻く人たちの流れに移りつつある。料理への情熱といった部分に筆が割かれなくなってきているのは残念だが、出てくる料理そのものの美味しさが伝わってくる点については変わらない。澪の成長も楽しみだが、それ以上に恋模様の方が気になる。謎の侍、小松原への恋慕に気付いた澪。澪に恋心を抱いていると思われる医師源斉。さてさて、どうなることやら。