平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今野敏『果断 隠蔽捜査2』(新潮文庫)

果断―隠蔽捜査〈2〉 (新潮文庫)

果断―隠蔽捜査〈2〉 (新潮文庫)

長男の不祥事により所轄へ左遷された竜崎伸也警視長は、着任早々、立てこもり事件に直面する。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立する。異例ながら、彼は自ら指揮を執った。そして、この事案は解決したはずだったが――。警視長第二方面大森署署長・竜崎の新たな闘いが始まる。山本周五郎賞日本推理作家協会賞に輝く、本格警察小説。(粗筋紹介より引用)

2007年4月、新潮社より刊行。2008年、第61回日本推理作家協会賞長編部門と第21回山本周五郎賞を受賞。『隠蔽捜査』に続く第二弾。



“隠蔽”していないからこの副題はおかしいんじゃないの、というアホらしい突っ込みはさておき、『隠蔽捜査』の竜崎伸也が帰ってきた。しかし、いつもの「正しいことを正しい」と言う竜崎節は健在。立てこもり事件からSATによる解決、そして意外な真相まで一気呵成に読ませる。途中竜崎の妻冴子が血を吐いて倒れたり、息子邦彦がアニメの仕事をやりたいと言い出すなど家庭内での問題も織り交ぜ、しかもそれが事件の流れと絡みつつ、竜崎の仕事のように何ら無駄のない展開が最後まで続く。これは協会賞や山本賞を取っても納得。警察小説の傑作に相応しい作品である。

このシリーズのすごさは、今まで多くの作品で悪役、もしくは無能として書かれてきた官僚のプロフェッショナルな実務能力を、読者の納得がいく形で表に浮かび上がらせたところだろう。「正しいことを正しい」という竜崎の言葉が、必要以上に人権を振り回すマスコミ、権利と義務をはき違える人たち、事なかれ主義な教育者などへ向けられるとき、多くの読者が喝采を挙げたに違いない。SIT(捜査一課特殊班)やSAT(特殊急襲部隊)、そして自分たちの部下など、プロが手掛けるべきところはプロを信頼して任せるその姿も、縄張り意識が強い日本人にとってはかえって共感を覚えるだろう。

ま、今頃読んで何を言うんだかと言われそうだけど、傑作。凄い作品だった。



帯にミステリーグランプリ2008(日本推理作家協会賞)なんて書かれているから、なんてまあセンスのないタイトルを勝手に付けたものだと怒りつつも念のため調べてみたら、他の本でも同じように書かれていた。どうも2008年からそういう風に併記しているらしい。大沢在昌理事長(当時)のセンスなの? それとも別の人?