平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大沢在昌『感傷の街角』(角川文庫)

感傷の街角 (角川文庫)

感傷の街角 (角川文庫)

早川法律事務所の調査二課で失踪人調査を専門にしている佐久間公を探偵役とした短編集。

26歳の不良青年が11年前に半年だけ付き合った2つ年上の女を捜す仕事を、ボトル1本の報酬で請け負った公。期限は仕事が休みの3日間。横浜の本牧まで車を飛ばしたが、女を知っていると思われた男は、公の隣の車で殺されていた。1979年、第1回小説推理新人賞受賞作「感傷の街角」。

日本舞踏家元の一人娘が家出した。後継者である彼女を1週間後の名取式までに連れ返さなければいけない。そして彼女が出奔した理由は、映画俳優との不倫だった。「フィナーレの破片」。

仕事が終わり、次の日は休みの夕方。公の車に無理矢理乗り込んできた少年の要請で、姉らしい女性が乗ったベンツを追いかけた。そして女性が消えたマンションに入った少年。公も入っていくと、呆然と立っている少年と、首を絞められた女性がいた。「晒された夜(ブリーチド・ナイト)」。

家出をした少女を追って訪ねたのは、人気上昇中の小劇団。知り合いの脚本・演出家に聞いても芳しい結果は得られなかったが、そこで起きたのは大河ドラマ出演で人気になった俳優の殺人事件だった。「サンタクロースが見えない」。

調査対象は家出をした病院の一人息子。ところがコヨーテと名乗る若い男が、どちらが先に息子を見つけることができるかという勝負を仕掛けてきた。「灰色の街」。

依頼人は高級ゲイバーで働くで働く男性。探す対象は妹。捜査は途中まで順調だったが、やくざの彼だったという人物はすでに殺されていた。「風が醒めている」。

晦日になった夜中に公の部屋を訪ねてきたのは、腹を撃たれた友人の沢辺。軽傷だった沢辺は公とともに撃たれた場所である腹違いの妹の部屋を訪ねるが、そこにあったのは男の死体だった。「師走、探偵も走る」。

1982年、双葉ノベルズより刊行。1991年6月、ケイブンシャ文庫として刊行。



今をときめく人気作家、大沢在昌のデビュー作を含む短編集。作者の最初のシリーズ探偵でもある佐久間公シリーズの第1作。「小説推理」の新しい賞でいきなり大型新人登場、ということで騒がれたような記憶があるけれど、違ったかな。もっともしばらくは初版作家として不遇の時期を過ごすことになるのだが。

「感傷の街角」はハードボイルドな部分とセンチメンタルな部分がうまくかみ合った作品として仕上がっているけれど、それ以降はセンチメンタルというか、甘い感傷が全面に出てしまっているというか。それが作者の狙いだったとはいえ、どことなくいびつな仕上がりになっていることは否めない。こういうのも嫌いじゃないけれど。

 佐久間公シリーズは一冊も読んでいなかったので、ここらで読んでみるつもりになったけれども、次はどうしようかちょっと迷うところ。甘い青春ものは嫌いじゃないので、ハードボイルドとはいえこのような作風が続くなら読んでみてもいいかなとは思う。