平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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藤原宰太郎・藤原遊子『改訂新版 真夜中のミステリー読本』(論創社)

改訂新版 真夜中のミステリー読本

改訂新版 真夜中のミステリー読本

 

  1990年7月にワニ文庫から出版された『真夜中のミステリー読本』の改訂新版。「二一世紀のIT社会にも通用するミステリーの案内書を作りたい」という藤原宰太郎の遺志を継ぎ、長女の藤原遊子が加筆、訂正、項目の削除を行い、生まれ変わらせた一冊。2019年12月、刊行。


 インターネットで何でも調べられる時代になったこと、そしてミステリーという分野が成熟しきったこともあり、ガイド本が姿を消すようになってしまったため、この本が復活したのは嬉しい。ただ復活するのではなく、内容も2019年の時点に書き改められている。
 削除されたエッセイもいくつかある。「ハードボイルドが日本ではやらぬ理由」。これは日本でもハードボイルドの名作が多数出るようになり、時代と合わなくなったから削除されている。本書では「感傷を切り捨てたハードボイルド小説」とタイトルを変え、内容も一部のみ収録された。
 「日本ミステリーの特徴<その2>」も削除。日本の、特に新人に密室トリックが多い、という苦言である。これはあえて残してもよかったと思うんだけどね。
 「創作意欲と性欲は比例するか」が削除。本エッセイに限らず、下ネタ系はたいてい書き改められているか、削除されている。「カギを握るのは俳句」が削除。元版の目次に載っていない項目だが、これは残しておいてもよかったと思う。「航空ミステリー傑作選」「海洋ミステリー傑作選」も削除。「ホモ探偵」「インポ探偵」「江戸の名探偵」「名探偵、全員集合!」が削除。前2項はさすがに今ではやばいでしょう。江戸の名探偵は、内容が「江戸の捕物帳傑作選」と被るからかな。最後のは残しておいてもよかったと思うけれど。
 第六章「名探偵の推理は間違いだらけ」は丸々削除。まあ、これはないほうがいいでしょう。言い出したらきりがないし。<久我京介のミステリー談義>も削除されている。これは別にエッセイのほうに組み込んでもよかったと思うが。
 逆に追加されたのは「世界最初の長編推理小説」「法律を利用した捨て身のトリック」「四人揃えば新人作家」「三〇を越えるペンネームを持つ作家」「読者を犯人にした究極の大トリック」「あの世が舞台のミステリー」「味覚が暴く犯罪」「犯人は見た」「透明人間のミステリー」「嘲笑う犯人、敗れる探偵」「新素材で大変身」「写真とミステリー」「エレベーターとミステリー」「動物のトリック」「乗り物のトリック」。
 他にも改訂されたところは多い。先に書いた下ネタ系の他にも揶揄している文章、表現に問題がある文章などは徹底的に直している。
 そして本書のいいところは、藤原宰太郎の欠点と多くの人が指摘しているネタばれに対する配慮ができるだけなされているところだ。文章中の紹介でも具体的にタイトルを出すのではなく、「〇〇〇〇の長編」という形に書き改め、注釈をつけて章末に作品名を紹介する態に書き改められている。これでネタバレに関してはだいぶ改善されたと言えるだろう。トリック紹介についてはどうしてもネタバレになってしまうが、間羊太郎が言っていたように、数多く紹介されるとかえってタイトルなどを忘れてしまうものだ。さらに多くの方に協力をいただき、トリックなどについての原典が大幅に増えている。これもまた見どころの一つだろう。
 今日でも十分通用するガイド本に生まれ変わったと思う。ただ残念なのは、原典に沿った形になっているので、ランダムにまとめられた印象がぬぐえないところだ。いっそのこと、ミステリーの歴史とかトリック分類とか、入門書的な形でまとめてほしかった。それとも、今後はそういう形で一冊にまとめてくれるのだろうか。今までの著作から書き出して、一冊を書くことは十分可能だろう。藤原宰太郎はネタバレなどの問題点はあったかもしれないが、ミステリーの楽しさを何も知らない人たちに紹介していった功績が非常に大きい。今こそ、そういう観点でまとめた本を編集してくれないだろうか。名探偵編とトリック編と歴史編をうまく絡めて。