平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジェイムズ・クラムリー『さらば甘き口づけ』(早川書房)

私立探偵スルーがトラハーンを見つけたのはカリフォルニア州のとある酒場だった。大男のその作家はアル中のブルドッグと一緒にビールを呑んでいた。晴れた春の午後を楽しむというように……。スルーに依頼の電話をかけてきたのはトラハーンのもと妻で、彼が泥酔また泥酔のあげく酒で墓穴を掘らないうちに連れ戻してほしいという。かくして西海岸の酒場という酒場を捜し回り、やっとのことでトラハーンを発見したのだが、あろうことかその酒場で大喧嘩が始まってしまった。トラハーンは負傷の末数日間の入院。ところがその間に、スルーはその酒場のマダムから奇妙な依頼を受ける。10年前に姿を消したまま杳として行方を絶った娘を探してほしいというのだ。やっかいなある中の作家を抱え込んだ上に、スルーの行く手には謎の失踪事件の影が大きく立ち塞がる!

アル中の作家、アル中のブルドッグなど特異で魅力溢れるキャラクターと失踪した娘の謎に包まれた過去――チャンドラー、ロス・マクドナルドを継ぐ薫り高いハードボイルド・ミステリ。(粗筋紹介より引用)

1978年、アメリカで刊行。1980年12月、翻訳のうえ単行本で刊行。



『酔いどれの誇り』に出てきた探偵ミロとともに、クラムリーのもう一人の探偵役であるC・W・スルー(小鷹信光訳だとシュグルー)の初登場作品。作者の3作目に当たる。買うだけ買って放っていたのは、チャンドラー系列のハードボイルドが苦手ということもあるが、訳が小泉喜美子というところも大きかったかもしれない(苦笑)。いや、翻訳家としての小泉喜美子はすごいと思うのだが、どうも好みの問題としてなあ……。

キャラクターとしてのスルーもいいし、トラハーンも面白い。ブルドッグファイアボール・ロバーツなんか最高。ただねえ、どことなく気障でウィットに富んだ会話というのがどうも肌に合わなくて……。女優に憧れて家出したベティ・スーなんて自業自得という気しか起きないし。

アメリカでは文学として評価されているとのことだが、それは分かる気がする。ただ、この頃のアメリカの風俗が自分には合わない、それだけのことなのだろう。ベトナム戦争の傷跡が残る人たちと、退廃的なセックスがあふれている70年代に。