平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笹本稜平『素行調査官』(光文社)

素行調査官

素行調査官

勤めていた探偵事務所が倒産した本郷岳志は、高校時代のクラスメートで警視庁警務部首席監察官である入江透警視正の誘いに応じて警視庁に入り、警務部人事一課監察係に配属された。監察係は服務規程違反、つまり警察官の不品行や不正を取り締まる部署であり、他の部署からは蛇蝎のごとく嫌われる。今回初めて任された仕事は、公安部外事二課に所属する浅野光男という警部補の不倫に関わる疑惑だった。相手は中国系の貿易会社経営者。本郷は同じ同僚である北本一弘巡査部長とともに経営者の女性のマンションを盗聴することにした。

警視庁第一機動捜査隊の小松佳文警部補は、相方の斉藤巡査部長と警邏中に通信司令本部からの命令を受け、公園内にある女性の刺殺死体がある現場へ急行した。現場で拾ったのは名刺入れ。その名刺の肩書きと名前を見て、小松は証拠物件を隠匿することを決意した。後日、小松はその名刺の持ち主のところを訪れようとしたが、自宅前で彼は二人の男に命を狙われた。彼を助ける結果となった小松は、自らの出世を夢見て、彼の依頼を引き受けることとした。彼の名前は、警察庁長官と警視総監の椅子にもっとも近いポジションといわれる警察庁警部局長、本田義久警視監であった。

警察内部に蔓延る公私混同と不正。出世と保身の毎日。探偵上がりの本郷が、事件の真相に迫る。

小説宝石」2008年3月号〜9月号掲載。



笹本稜平の新作は警察内部の不正を探る警察小説。設定そのものはそれほど珍しくないが、主人公が元私立探偵で、警視庁には中途採用されたという経歴が珍しい。本編でも、元私立探偵というキャリアを生かした捜査手法、眼力を示すが、警察官という仕事になれないのか、中盤まではややもたもたした感があった。終盤になってようやく主人公らしい動きを見せるが、どちらかといえば小松の方の印象が強いのは私だけだろうか。

笹本の欠点なのかどうかわからないが、ときどき妙にリアリティな動きを優先してしまい、読者の爽快感を二の次にするところがある。本作でも結末に関していえば欲求不満のたまるところだろう。

本郷や北本、入江といったキャラクター造形が作りすぎているぐらい作っているので、続編でも考えているのだろうか。ただ、ファンとしてはあまりこういったような作品を乱作してほしくないのである。