平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ロバート・L・フィッシュ『シュロック・ホームズの迷推理』(光文社文庫 英米短編ミステリー名人選集7)

シュロック・ホームズの迷推理―英米短編ミステリー名人選集〈7〉 (光文社文庫)

シュロック・ホームズの迷推理―英米短編ミステリー名人選集〈7〉 (光文社文庫)

ベイグル街221Bに住む名探偵、シュロック・ホームズは、些細な手がかりから迷推理を繰り広げ、簡単な事件を難解に解き明かすのだが、それはいずれも的外れ。そんなホームズの活躍は、同居人である医師ワトニイによってまとめられていた。

ロバート・L・フィッシュがデビューするきっかけとなったシュロック・ホームズものを日本独自で編集した短編集。他にMWA短編賞受賞作「月下の庭師」等を収録。



ロバート・L・フィッシュといって即座に思い浮かぶのは、『懐しい殺人』等の「殺人同盟」シリーズと、本作の主人公であるシュロック・ホームズものの短編集である。「シュロック」がイディッシュ語で「三文」とか「安物」とか「まやかし」を意味するというのは、解説で初めて知った。シュロック・ホームズものをまとめて読むのは今回が初めて。ホームズは嫌いだが、ホームズのパロディものは好きという私は大いに期待していたのだが、全然わからん(苦笑)。

基本的にシュロック・ホームズシリーズは、本家ホームズのパロディになっているのだが、その笑いの方向や迷推理が基本的に駄洒落を中心としているので、英語の弱い私にとっては、どこで笑えばよいのかさっぱりわからない。どこでどう間違えれば推理が明後日の方向に向かうのかが不思議でたまらないのだが、英語が分かればもう少し楽しめたのかと思うと残念。まあそれ以上に不思議なのは、そんな彼に事件を依頼する人が出てくることと、どうやって生活をしているのかということなんだが。

今回収録されたのは、第一作品で、かつEQMMに初投稿した「アスコット・タイ事件」、宿敵マーティ教授との死闘の末行方不明になったホームズが帰ってきた「シュロック・ホームズの復活」他、「奇人ロッタリーズ氏」「シュロック・ホームズの迷推理」「動物輸送車事件」「謎の郵便番号」「不思議なレストラン」「純文字の殺人」「短気な導火線」「ウクライナの孤児」と、最後の短編である「ハメルンの酔いどれ笛吹き」。

それにしても「短気な導火線」「ハメルンの酔いどれ笛吹き」の結末、ブラック過ぎるんだけどいいの、本当に?

「ラッキー・ナンバー」は予言能力を持つ老婆と賭博物を絡めた短編。オチが軽妙。

「月下の庭師」はノンシリーズの短編。1972年、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀短編賞を受賞。サスペンスたっぷりの佳作である。

「一万対一の賭け」は密輸人ケック・ハウゲンスシリーズもの。これはまとめた短編集を読んだ方が楽しめるかもしれない。

「クランシーと飛びこみ自殺者」は、ロバート・L・パイクというペンネームで発表されたクランシー警部補ものの第一作。ニューヨーク市警52分署に移ったばかりで、よそ者感を漂わせていたクランシーが仲間として溶け込むようになったという意味では重要かも。警察小説として、無難な作品。シリーズ長編第一作『ブリット』は、スティーヴ・マックイーン主演で1968年に映画化されている。

「よそ者」はノンシリーズの短編。これもまた結末でお見事とうなるしかない。フィッシュが短編の名手なんだと思わせる一品である。