平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笹本稜平『越境捜査』(双葉社)

越境捜査

越境捜査

警視庁捜査一課の特別捜査一係に移った鷺沼友哉は、手が空いていたため、かつて自分が手がけた森脇康則殺害事件の再捜査を一人で行うこととした。森脇は警視庁捜査二課が追っていた巨額詐欺事件の被疑者だったが、殺害され迷宮入り直前だった。犯人も、そして森脇が受け取った総額12億円の札束も不明のまま。遺体が発見されたのは横浜港ということで、殺人事件そのものの捜査の主体は神奈川県警だった。警視庁と神奈川県警は犬猿の中。鷺沼が捜査を開始した瞬間、鷺沼は三人の男に痛めつけられる。神奈川県警は事件の迷宮入りを願っているのか。鷺沼のもとに近づいてきたのは、県警の不良刑事、宮野。宮野は、ナンバーが知れているかつての12億円の札束の一枚を偶然入手していた。さらに鷺沼の元上司である、神奈川県警警務部監察官室長の韮沼からも、同事件の捜査を依頼される。

「小説推理」2006年2月号〜2007年3月号に連載された作品を加筆・訂正。



ここのところ「駐在刑事」「不正侵入」と警察小説を書き続けている笹本稜平の最新作。最初は警察組織の裏金システムや犬猿の仲である警視庁vs神奈川県警を背景とした捜査が続くが、途中からは消えた12億円と、迷宮直前の事件の真相そのものの方に主眼が置かれるようになる。

帯にも「神奈川県警vs警視庁」と書かれているのだが、先にも書いたとおり、話の流れは中盤から大きく変わってしまう。県警vs警視庁という観点は全く消え去ってしまう。これは作者の当初の目論見が異なってしまったのか、それとも最初からの流れなのかは不明であるのだが、多分前者の意見のほうが正解だと思う。宮野や暴力団の福富の言動や行動など、力の使い方はともあれ、夢見る冒険家のイメージしか浮かんでこない。

前半はどちらかといえばシリアスで重いムードなのだが、後半になると、警察の膿を表に出す要素があるとはいえ、コンゲームに近い雰囲気の作品となってしまう。結末直前の、あまりにもご都合主義的な展開は目を覆いたくなるところがあるものの、それでも悲壮感のない明るい結末が清清しい。

はっきり云ってしまえば、連載ならではの失敗作だろう。前半と後半の流れの違いは、作品の完成度といった面からすれば壮絶なくらいのミステイクである。ただ、読んでいる分には楽しい。失敗作と思われるのに、この面白さはいったい何なのだろう。変梃りんな作品である。