平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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石崎幸二『首鳴き鬼の島』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

首鳴き鬼の島 (ミステリ・フロンティア)

首鳴き鬼の島 (ミステリ・フロンティア)

お知らせしたいのは、あなたのご両親のことです。施設で育ったあなたは、ご自分のご両親のことはご存知ないかもしれません。そのご両親のことで、大変重要なことをお知らせしたいのです。



相模湾に浮かぶ、竜胆家の私有地・頸木島は「首鳴き鬼」の伝説から、首鳴き島と呼ばれていた。首を切られた鬼の身体が首を求めて鳴きながら彷徨うという伝説だ。若者向け情報誌の怪奇スポット特集の取材で、ガールフレンドの茜とともに島を訪れた編集者・稲口は、後継者問題で一族が集まる頸木島の頸木館で、伝説に見立てた連続殺人事件に巻き込まれた……。(粗筋紹介より引用)

2007年7月刊行。メフィスト賞作家、久しぶりの書き下ろし。



講談社ノベルスでは、女子高生コンビとの会話が無駄に楽しいシリーズが一部で好評の作者だが、本書は真正面から本格ミステリに挑んでいる。帯にもあるとおり、「孤島の館、嵐の夜、そして連続見立て殺人……」と、好きな人にはたまらない設定を用意してきた。

読み終わって感心したのは、科学捜査が発達したこの現代で、あのトリックを成立させたことと、さらにそこから返しを成立させたことである。トリックそのものは予想できても、科学捜査をこううまく利用する方法があるとは思わなかった。もちろん、それを成立させるための準備もなかなか。見立て殺人の理由よりも、それを成立させるための仕掛けに思わずうなってしまった。犯人を追いつめるまでのロジックも悪くない。本格ミステリの“本格”部分は高得点を上げてもいいと思う。

ただ、読み終わっても、面白かったという印象はあまりない。本格ミステリの“ミステリ”部分はペケである。

舞台、背景、容疑者、犯人像、特にワトソン役や探偵役。いずれも、古典の本格ミステリそのままの姿である。なぜ21世紀の今頃になって、リバイバル作品のような新作を読まなければならないのだろうか。わかりやすすぎる伏線(これは長所ととらえる人がいるかも)、連続殺人が起きている中での緊迫感の無さ、暢気に繰り広げられる事件の検証(無意味なトリック論議や犯人当て合戦が起きなくてよかった)。孤島における嵐の館なのに、サスペンスが皆無というのはどういうことだ。本格ミステリの悪い部分を、そのまま引き継いで現代に甦らせてどうするのだ。先人が造ったレールの上を走るのではなくて、先人が造ったレールそのものを模倣してできあがったような感じだ。

さて、この作品、どう評価すればいいんだろう。傑作とはまるで思えないけれど、駄作と切り捨てるにはもったいない。さりとて、万人に勧められる作品でもないし……。微妙な作品かな、色々な意味で。微妙ってなんだ、微妙って。よくわからないけれど、とにかく微妙なんだよ。