平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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加藤元浩『Q.E.D―証明終了―』第30巻(講談社 マガジンコミックス)

Q.E.D.証明終了(30) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(30) (講談社コミックス月刊マガジン)

本格ミステリ漫画の金字塔、ついに30巻の大台に到達。今回は「人形殺人」「犬の茶碗」を収録。
「人形殺人」は続けてマネキンが破壊される事件が起きた。マネキンが着ていた服のポケットには、どちらもある独立行政法人のトップの名刺が入っていた。そして次に起きたのは通り魔事件。傷を負ったのは、厚生労働省の課長だった。トリックそのものはクリスティーの某作品……というより横溝正史の某作品に近いが、とにかく読めば誰でもピンとくるだろう。ただこの作品の素晴らしいところは、あえて最初にマネキンを破壊する事件を持ってきたところ。さらに、名探偵である燈馬は次に事件が起きる場所を推理するのだが、事件の背景は全く知らされていないため、誰が殺されたとしても燈馬の名探偵の評価には全く傷つかないところ。“人形殺人”を効果的に使ったところといい、ここ最近では会心の作品ではないだろうか。先にも述べたトリックや、犯人を追いつめる手順などのミステリ的テクニックが既存のものだったとしても、組み合わせと演出によっては素晴らしい効果を得ることができるといういい見本。本格ミステリ作家も見習ってほしい。
「犬の茶碗」は、催眠商法で被害にあった老人たちを手助けし、金を取り戻そうとするコンゲームもの。ほとんどの人が知っているような古典落語ネタをモチーフにして一ひねり加えるところはさすがの腕前。最後のコマのオチが鮮やかである。
今回の収録作品はどちらも満足。まだまだ読者を楽しませてくれそうである。