平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大村友貴美『首挽村の殺人』(角川書店)

首挽村の殺人

首挽村の殺人

岩手県の雪深い村・鷲尻村。無医村の状態が続いていたこの村に、東京から待望の医師・滝本志門がやってきた。しかし、滝本の着任以後、村では謎の変死が立て続けに起こる。それは、殺害後の遺体を異様な形で人目に触れさせるという、前代未聞の連続猟奇殺人事件だった。

この村が「首挽村」という不吉な名前で呼ばれる理由とは? 村人すら忘れかけていた忌まわしい過去が、事件の真相を浮かび上がらせる――。(帯より引用)

綾辻行人絶賛、第27回横溝正史ミステリ大賞受賞作。



帯に「これが、21世紀の横溝正史だ」「横溝正史ファン必読! 横溝世界を見事に現代に蘇らせた本格推理小説の誕生!」とまで書かれると、横溝ファンだった自分としては手に取りたくなるのは当然のこと。とはいえ、こういう帯の惹句は、100%大当たりか、大外れかのどちらかなのだが、残念ながら大外れだったようだ。

忌まわしい過去のある村での猟奇連続見立て殺人という横溝的設定に、無医村、過疎、少子高齢化、自然破壊、町村合併などの社会的キーワードが重なり合うところが、“21世紀の横溝正史”なのかもしれないが、前者の要素と後者の要素がうまく結びついていない。それぞれのキーワードが話の一場面で大きく浮かび上がっては、他の場面であっさりと沈んでいくので、話として融合せずにバラバラなままで物語が終わっている。特に赤熊のエピソードは物語を煩雑にし、連続殺人の部分をぼかす結果となっているので不要だったのではないか。これが犯人のトリックにおける目眩ましとなっていれば良かったのだが。

選考委員の多くが指摘しているとおり、人物の描き分けができていない。主要人物の女性たちは、誰が誰だかさっぱりわからないし、端役の人物に至っては名前が出されないと全くといっていいほど誰だかわからない。主役級である滝本にしろ、彼の本当の姿を見せるような描き方ができていないから、最後で語られる真実の姿が唐突な結果になっている。視点の人物がころころ変わるのもマイナス。こういう作品の場合、読者が感情移入できる人物を一人でも作るべきだろう。

そして疑問に思うのだが、この作品は本当に本格ミステリとしてのロジックが書かれているのだろうか。推理らしい推理がほとんどなく、最後は残っていたピースを適当に当てはめたら完成してしまった、という程度の解決しか書かれていないのだ。これっていったい、なんなんだろう。少なくとも、推理する条件はほとんど与えられていないね。推理ではなく、想像するだけ。

作者の言葉がないのでわからないのだが、本当に横溝正史の世界を現代に蘇らせたかったのだろうか。賞を狙うために、横溝正史の世界を借りただけじゃないのだろうか。まあそれでも別に構わないのだが。

これが横溝正史ミステリ大賞ではなく、そして帯に変な惹句が書かれていなかったら……それでも評価は変わらないか。現代社会が抱える要素を横溝的世界に融合させようとした努力は買えるけれど、それだけだね。全体的に力不足。坂東眞砂子の選評が、一番的を射ていると思う。書きたいことを無理に詰め込むのではなく、整理することを覚えてほしい。