平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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鮎川哲也『ヴィーナスの心臓』(集英社文庫)

“本篇は、ある年の日本探偵作家クラブの七月例会の席上で、余興の犯人当てゲームとして朗読されたもののテキストであります” 日本の第一線推理作家たちが30分間に推理力をフルに活動させ、競い合ったが…、その結果は正解者なし。さて、読者のあなたは果して??(粗筋紹介より引用)

「達也が嗤う」「ファラオの壺」「ヴィーナスの心臓」「実験室の悲劇」「薔薇荘殺人事件」「山荘の死」「悪魔はここに」の犯人当て小説7編を収録。1960年に講談社から出版された『薔薇荘殺人事件』の文庫化。



昭和30年代は、犯人当て推理小説が結構盛んだったんだな、と思わせる一冊。鮎川哲也は最近、犯人当て推理小説集が3巻にまとめられたように、結構な数の作品を残している。元々の作風が、犯人当てに適していたんだろう。

本作品は、傑作「達也が嗤う」「薔薇荘殺人事件」などが収録されている。単なる謎解きだけでなく、解答篇ではなぜ事件を起こしたかといった背景などもきっちりと書き込まれており、問題篇と解決篇に分かれていなかったら普通の本格ミステリ短編と言っても十分通用する仕上がりになっている。