- 作者: 西澤保彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/07
- メディア: 単行本
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1944枚、書き下ろし。
かなり力を入れて書いているという噂は聞いていたから、出てすぐ買ってみた。帯にある「こんなに殺していいものか!?」の一言。なんとなく不安になったのだが、読んでみてその予感はあたった。ダークな西澤節、満載である。今風の言葉で言えば、「黒西澤全開」となるのか。ダークなものはちょっと苦手である。
1982年の大量殺人事件。そして9年後の1991年に起きた猟奇的な殺人事件。そして似たような手口の殺人事件が、94年、95年と続く。そして最後に2007年。30人以上が殺された勘定になる。名前だけの人物もいるし、こいつが殺されるのは理不尽だろう、という登場人物も多い。逆に殺されて当然、という登場人物もいる。軽々しく殺しすぎたんじゃないか、と思える部分もあるが、簡単に人を殺せる時代と運命を念頭に置いて書いているのだろうから、それほど気にはならない。殺人に至る動機は、色々な意味で感心した。呆れた、というのもちょっとは入っているが。
西澤の一面ともいえるパズル的部分はほとんどない。一応謎の解明はあるものの、推理らしい推理はごく一部である。じゃあこの作品、いったい何なのだろう。サスペンスやサイコ、スリラーとは違うと思うし、本格ミステリというのも無理がある。繰り広げられる殺人大河ドラマ、とでも名付ければよいのだろうか。なんとも形容しがたい大作なのである。ただ、これを傑作かどうかと聞かれたら、首をひねってしまう。少なくとも傑作ではないだろう。主要人物の描き方に深みが足りないなあ、と思える部分(特に繭子)があるのも事実だし、謎そのものなんとなく軽さを感じてしまう。猟奇的連続殺人という恐怖と、殺人を軸に据えた運命の歯車が、うまくかみ合っていない。所々が異音を発している、そんな印象を受ける。
多くの登場人物を自在に操るうまさ、端役の人物までその後を書き込んだ物語の引き、張り巡らせた伏線の巧みさなど、評価したいところも多いんだけどね。なんかもう一歩の大作、と評したい作品。褒めているのか、貶しているのか、自分でもよくわからないのだが。色々書いたのだが、読んでみるだけの価値はあると思う。
どうでもいい話だが、昔の自分だったら、警察はもっと突っ込んで調べるだろう、と文句を言っていたに違いない。今だったら、警察は一応の筋道が立った解決、しかも被疑者が死んでいるとわかっていれば多少の矛盾点があろうと捜査を取りやめるだろう、と思ってしまう。この変化はなんなのだろう。結局、警察を全く信用しなくなったということかな。犯罪ノンフィクションなどを多く読むようになって、考え方が変わってしまったようだ。