雨目石鋼機株式会社の名誉会長である雨目石昭吉が約10年前に別荘として購入した、昭和初期に建てられた古い洋館の
クローズドサークルと密室殺人に大喜びの二ノ宮、実は杏花の高校の同級生だが口に出せない牧、30歳になると昭吉からの援助が打ち切られる梗介の視点で物語は進む。
『小説推理』2021年12月号~2022年6月号連載。加筆訂正のうえ、2023年4月、単行本刊行。
作者は2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。複数の著書がある。クローズドサークルの密室殺人、さらに連続殺人が起きるのに、事件を解決するはずの名探偵がいない、という帯に惹かれて購入。
特に最初の事件は、誰にも犯行が行えず、動機らしい動機も見当たらない。物語は二宮、牧、梗介の視点で進むのだが、警察も名探偵もいないので、各自が得た情報が集約することはなく、全てを知っているのは読者だけという状態なのである。そして神の視点Xから、「ここまでの視点で犯人は特定可能である」と投げつけられる。
本格ミステリファンなら、クローズドサークルの連続殺人事件に興味津々だろう。作中でも二宮は、人が死んだことより自分が憧れの設定の登場人物になっていることで大はしゃぎしており、読んでいて腹立たしい(笑)。こんなのが居たら遺族から殴られてもおかしくはない、と言いたくなるぐらいの浮かれ様である。さすがに本格ミステリファンでも、実際の事件でこんな態度をとるような人物はいないと思いたい(笑)。
それはともかく、3人の視点が速い展開で入れ替わってスピーディーに物語が進むのだが、視点が重なる部分と重ならない部分がある。これでどうやって結末まで持っていくのだろうと思っていたのだが、結局各人が推理を披露するだけなのは今一つで、なにか工夫がほしかったところ。推理の披露部分でようやくすべての証拠が明らかにされ、最後にある人物が謎解きをする。本来なら、証拠が出てくる→ワトソン役が短絡的な発想で推理を披露し、名探偵にたしなめられる→証拠がすべて明らかになる→名探偵が正しい推理を披露する、という展開がちょいとずれているというわけである。これを新しいとみるかどうか。密室トリックが現実的だったのにはホッとしたが。
読み終わってみると、ちょいと変な気分にはなったな。これが新感覚なんだろうか(苦笑)。クローズドサークルで、最後に変な人間ドラマを見せられた。それが面白いとは思えなかったが、これは好みかもしれない。