平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小林久三『皇帝のいない八月』(講談社文庫)

皇帝のいない八月 (1981年) (講談社文庫)

皇帝のいない八月 (1981年) (講談社文庫)

ブルートレイン「さくら」の切符をゆずれと脅迫した男たちは何者なのか。切符譲渡を拒んだ業界紙記者の石森は、異様な不安を覚えつつブルートレインの客となった。果して異常な雰囲気を発散させる男たちがいた。彼らの狙いは? 行先は? 大胆な構想と迫真のシチュエーションで世を震撼させた予見長篇ミステリー。(粗筋紹介より引用)

1978年に出版された、政治クーデターサスペンス小説の傑作!



たまたま古本屋で見つけたので、懐かしくなって買ってしまった。これで三度目の読了となる。

すでにこの作品は、日本におけるクーデターを取り扱った最初期の作品であり、政治サスペンス小説の傑作として高い評価を得ている。過去2回開いたときには、とても面白く読んだ。

久しぶりに読み返してみると、確かに面白いのだが、昔ほどの満足度が得られなかったのも事実である。それは結末を知っているという理由だけではない。厚い、厚い冒険小説の醍醐味を知ってしまうと、この作品程度の長さではどうしても物足りなさを感じてしまうのだ。もちろん、あまりにもだらだらと書かれるのも問題だが、政治サスペンスものだったらどうしてももっと背景を、人物を書き込んでほしい、という想いが生じてしまう。

時代を考えたら、贅沢な要求である。しかし傑作という傑作でも、時代が経ってしまうとやや色あせてしまう。そんな当たり前のことに、今更気付かされてしまった。