平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

雫井脩介『犯罪小説家』(双葉社)

犯罪小説家

犯罪小説家

新進作家、待居涼司の出世作『凍て鶴』に映画化の話が持ち上がった。監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は『凍て鶴』に並々ならぬ興味を示し、この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト〔落花の会〕を運営していた木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め――。全篇に充ちた不穏な空気。好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス。(「BOOK」データベースより引用)

2008年10月、書き下ろし刊行。



雫井脩介にしては珍しい心理サスペンス。小説とは関係のないはずの自殺系サイトに興味を抱く小野川充に戸惑う待居涼司。さらに、かつてネット心中について著書を出した今泉知里の力を借り、サイトの人物の正体を追おうとする小野川。いくらなんでも強引な展開だと思うが、狂気という言葉と読みやすさで誤魔化している気がする。結局最後までそんなペースで進むものだから、違和感を抱いたまま終わってしまったのは残念。作者の言いたいことは分からないでもないが、それを言いきろうとするならもっと内面を深く掘り下げるべきじゃないのかと言いたい。読みやすさを優先して削っているのだろうが。

待居涼司の鬱屈した部分は、作者自身を投影したものだろうか。となると、異常なハイテンションの小野川充にもモデルはいるのだろうか。

読み終わってみて、悪くはないし、スカスカ読めるんだけど、もやもやしたまま終わってしまうもどかしさがある。もうちょっと説得力ある言葉が欲しかった。