平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

残忍な手口で四人の女性を殺害したとして死刑判決を受けたダリアン・クレイから、しがない小説家のハリーに手紙が届く。死刑執行を目前にしたダリアンが事件の全貌を語る本の執筆を依頼してきたのだ。世間を震撼させた殺人鬼の告白本! ベストセラー間違いなし! だが刑務所に面会に赴いたハリーは思いもかけぬ条件を突きつけられ……アメリカで絶賛され日本でも年間ベストテンの第1位を独占した新時代のサスペンス!(粗筋紹介より引用)

2010年発表。2011年3月、ハヤカワ・ポケット・ミステリより邦訳刊行。2013年1月、文庫化。



作者のデビュー作で、アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の最優秀新人賞の候補となった作品。年末の各ベストテンで1位を取っている。

20年、様々なペンネームで小説を書いてきた二流小説家のハリー・ブロックに、連続殺人犯で死刑囚となったダリアン・クレイから手紙が届く。告白本の出版と引き換えに、手紙が届いた女性ファンを取材してポルノ小説を書いてほしいという条件を受ける。しかし、その女性ファンが次々に殺される。しかも、クレイと同様の手口で。担当弁護人であるキャロル・フロスキーがいうよに、彼は無罪なのか。

単に死刑囚の生い立ちや残虐な手口などを読まされるのかと思ったら、意外な展開に驚き。主人公の自分語りが冗長だし、章ごとにはさまれるハリーの過去の小説の断片ははっきり言って不要。それだけ無駄が多いのに作品のテンポはよく、登場人物の描写も悪くないので、ついつい引き込まれてしまう。少なくとも出だしからは想像もできないわな、これは。本格ミステリファンからも評価されたのは分かる気がする。丁寧すぎる結末は、個人的には好き。

いかにも“二流”という感じの主人公が秀逸。結局二流は二流なんだ、それでもファンはいるんだ、みたいな中途半端さがたまらない。ポルノ雑誌の相談コーナーを担当していた、というハリーの姿が作者とダブってきて、今まで苦労してきたんだ、それをぶつけるんだ、みたいな怨念も所々に出てきているのは、もう少し控えてほしかった気もするが。

なるほど、これは年間ベストの1位を取ってもおかしくは無いな、と思わせる傑作。これがデビュー作というのだから、アメリカには色々な逸材が埋もれているものだ。