平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ディーン・R・クーンツ『ライトニング』(文春文庫)

ライトニング (文春文庫)

ライトニング (文春文庫)

いまは流行作家としてときめくローラ・シェーン、かつては孤児院で辛酸をなめた薄倖の美少女だった。これまでの生涯、何度か人生の危機や事故に見舞われそうになったが、そのつど、どこからともなく立ち現われて危難から救ってくれた"騎士"がいた。そのたびに、空には閃光が……。ジャンルを超えた傑作スーパー・スリラー。(粗筋紹介より引用)

1988年、発表。1989年10月、邦訳、文春文庫より刊行。



クーンツブームのころに出版された一冊。この時のクーンツは、いったい何社から出版されたのだろう、というぐらい、数が出ていた。元々多作家だから、それも当然のことか。その中でも、傑作と呼ばれている作品の一つが本書。

それこそ生まれたときから何度も危機に陥ったローラを助けたのが、閃光とともに現れた守護の使い。いったいこれが誰なんだ、ときたら、いやいや、びっくりしました。

あっさりネタバレしますが、これはタイムトラベルもの。前半はローラが生まれてから結婚し、子どもが生まれ、流行作家となり、そして最愛の夫が殺されるまで。その途中、何度か危機に陥るも、必ず守護の使いが助けてくれる。この使いの正体は、なんとナチスドイツ時代のSS将校で、しかも当時のヒトラーたちまで絡んでくるというトンデモな展開。やはりこの強引な展開こそが、クーンツの真骨頂だろう。

ある意味作者にとって都合のよいタイムトラベルルールを設け、後はそれに従ってコマとサスペンスを配置するだけ。それなのにここまで面白くなるのは、やはりストーリーの組み立て方が抜群だからである。主人公であるローラの強さ、愛の深さだけでなく、息子クリスの愛らしさと、子どもならではの強かさも絶妙である。そしてどんなことがあろうとも相手を信じる親友セルマとの深い友情もスパイスとして効いてくる。

前半は主人公の半生で時々退屈になるのだが、本を置きたくなるところで事件を起こし、読者の興味を残したまま、後半からの一気呵成な展開。いやはや、娯楽小説として一流、サスペンスとして超一流。これこそがクーンツだ、と言いたくなる傑作である。何を今更だが。